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吼える月
第18章 荒波
やがて――。
「サク、あそこよっ!!」
網や銛や槍、或いは飛び道具などを使いながら、ひとかたまりになって勇猛に戦う子供達を発見する。
子供の割には武器の扱いも上手く、身体能力も高い。
だが所詮は子供――。
「姫様、ちょっと降りててくれますか? あそこの帆の影にでも」
「わかったわ。サクの邪魔にはなりたくはないもの」
「すみません、すぐに終わらせます」
警備兵の隊長を務めていた武人たるサクの目からすれば、目の前の子供達は、警備兵の新人の域にも達していない未成熟な身体と武力の持ち主である。
ひとかたまりになれば敵を誘き寄せたり、対抗戦力は少しは上がるかもしれないが、大群相手にひとつの場所にいるのは無謀だ。
ひとり残らず食らってくださいと言っているようなものだった。
横から止めどなく現われるサメの数よりも、明らかに重軽傷を負った子供達の数の方が多い。
果敢にサメに挑むのは、現実認識が未熟なのか、それとも……その剛胆さが幼いながらも培われてきた、"海の民"たる蒼陵の特質なのか。
だがサクは知っている。
「そっち気をつけろ!!」
「うわあああ、ヤンが食われた!!」
「サメ除けの餌が、なんで今日に限って効かないんだよ!!」
「こんな大群、俺初めて見たっ!! なんだよ、なんでこんなになったんだよ!!」
「シバは!?」
「シバはテオン達がいるあっちの方だ!!」
集団というものは、だれかが気概を見せている限りは力にはなるが、誰かひとりが乱れれば――、
「うわああああ!!」
恐怖はすぐに全員に伝染して、容易く団結は崩れるものだということに。
滑って逃げ遅れた子供を噛み砕こうとするサメ。
恐怖にパニックになった子供が騒ぐと、連鎖反応的にあがる悲鳴があちこちで反響し合う。
堰を切ったかのような、年相応の……絶望的な叫びが。