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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
部屋を飛び出したサクは、その声がした方向を見つめた。
それは――今夜夜通し祠官が術をかけ続ける紫宸殿に通じる入り口。
離れの時と同じように、二重の鍵を外さねば戸は開かない。
「なんで……戸が開いているんだ!?」
祠官が、本殿からの侵入者を招き入れたのか?
もしや、ユウナが父の元に行きたがり、それで祠官が鍵を外した?
「ありえねぇ……」
特殊な今夜だけは、紫宸殿には誰も近づかないことになっていた。
仮にこの戸を叩いて紫宸殿に行きたいと意志を伝えたとしても、その音は祠官が祈りを捧げる祭壇には聞こえない。遠く離れすぎている。
聞こえたとしてもそこで集中力を必要とする術を中断させるわけにはいかないこと、祠官自身がよく知るはずだから、無視をするだろう。
そう、祠官が作る結界は……黒陵だけの問題ではない。倭陵全体の結界となるのだから、黒陵の結界が揺らげば倭陵の結界も揺らぐのだ。
祠官の独断で、星見の凶々しい予言が成就してしまう危殆を孕んでいる。
「――っ!!」
ああ、今は誰がどうしてどうやって鍵を外したかなど考えるゆとりはない。
ユウナの声が、あの戸の向こう側から……紫宸殿から聞こえたことは真実。その奥が危険なのだ。ユウナも、そして多分祠官も。
「姫様あああああ!!」
一刻でも早く駆けつけねば。
サクは駆けた。