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吼える月
第18章 荒波
「その銛と槍の奴!! サメの目を狙えっ!! 腕に自信はあるなっ!?」
「「当然っ!!」」
サメの目に突き刺さる武器。
仰け反るサメの腹をサクは切り裂いた。
「ああっ!! 腹からヤンが……っ、ヤンが出て来たっ!!」
「丸呑みされただけだったんだ!! よかった消化される前で!!」
サメは宙にてもがき苦しむ姿を見せたかと思うと、海に落下して二度と浮き上がってはこなかった。
「おーし、ひとまずサメは落ち着いた。あははは、さすがの化物サメも、お前達の強さに怖れを抱いたか」
「勿論さっ!! 僕達が負けるわけないし!!」
「……そこは"お兄様のおかげです"って、殊勝に俺に感謝するところだろ!? なんだよお前達。さっきまでびーびー泣いてたクセして」
「うるせぇな、おっさん!!」
「そうだ、黙れよおっさん」
「おっさん!? 俺は19だぞ!?」
「やーいやーい、おっさん、おっさん!!」
「俺達の若さが羨ましいんだろ。やーい」
「このクソガキ――っ!!」
気づけば――。
恐怖に叫んでいた子供達は、落ち着いて自信を回復していただけではなく、サクと……、昔ながらの友達のように和気藹々としている。
ユウナは邪魔にならないよう物陰から様子を見ていて、サクという男の持つ魅力に感心した。
少し子供達の様子を見ていただけなのに、どの子供がどの武器を得意とするのか見抜いただけではなく、的確な号令にてサメを撃退させたのだ。
ひとりでサメを撃退する力がありながら、わざと子供達に花をもたせたのだ。……恐怖の記憶を塗り替えるために。
どんな時にも冷静な判断を下せるのは、武神将たる器があるものだからなのか。武力だけではなく、司令塔としてもサクは有能なのか。
ああ、行きたい。
サクの傍に行って、サクは自分の武神将だと自慢したい。
気分は、武闘大会で優勝したサクを見ていた時のようで。皆でサクを讃えて盛り上げたい心を抑えながら、ユウナは満面の笑みで飛び出した。