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吼える月
第18章 荒波
テオンとイルヒを無視して男が足を止めたのは、サクとユウナふたりとの距離が安全に保たれるぎりぎりの境界――。
男でもサクでも、互いに一歩でも間合いを詰めれば、即時に互いの武器が飛んでくるだろう……危殆さを孕む空気が生まれている。
この男は間違いなく、武術の心得があると踏んだサクは、相手の実力の程を見定めようと、男……シバを走査する目を細め、剣を構えた。
不穏な空気を感じ取ったのだろう、テオンが両手を拡げて間に立つ。
「猿――っ、シバは悪い奴じゃない。兄貴が一番信頼する、僕達の面倒一切を見てくれる優しい2番目の兄貴なんだよ」
そして手を広げたまま、シバに向いた。
「シバっ、お願いだよ、この人達は悪くないんだ。イルヒを助けてくれたんだって。警戒心が強いイルヒですらふたりに懐いているんだ。お姉さんは優しいし、猿は強いし、海の藻屑になるには勿体ないんだよ」
「ねぇ、シバ。まずは兄貴のところに連れようよ。ただ捨てるよりも使い道があるかもしれないじゃないか。だから今ここで、命をとるというのは…」
「イルヒ、テオン。掟は掟だ、例外はない。掟を破ったものの運命はどんなものか、知らないわけではないだろう?」
シバの非情な声が響き、テオンもイルヒもびくりと身体を震わせた。
広大な海を背景に、風に靡かせる瑠璃色は。
どこまでも自由なるものなのだと主張しているようにサクには思えた。
ハンを初めとした武神将の"遮煌"他の凶々しい予言の"対策"にて、生き残った者達は今はその数は絶え失せたはず。運良く生き残っていたとしても暗い穴蔵で震えながら生きているはずだ。
その惨い環境は自らの命が尽きるまで続く――。