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吼える月
第18章 荒波
だが、この男は違う。
染め粉で自らの生まれを隠すこともなく、逆に威風堂々としていて、見ているだけで清々しく。
それなのに、こんな"小規模"の掟如きに囚われているのが滑稽で。
恐らくは"兄貴"と呼ばれる、秘匿されしジウの長男に助けられでもして、自ら忠誠という名で子供達の道標となろうとしているのだろう。
それゆえに、大陸の掟に反抗する度胸はありながらも、盗賊の掟に囚われる生き方を了承しているこの男が、妙に微笑ましくて。
その律儀さが、その几帳面さが。
サクは相対している立場ながらも、妙に好感を持ってしまった。
こういう輩は、サクは嫌いではなかった。
たとえどんな例外をも認めぬがちがち頭でも、生きるスタイルを貫くということは、闘いのスタイルを貫こうとする武人によく似ているから――。
だとすれば。
言葉で通じない相手に、どう害意はないのかわからせるのか、方法はひとつ。同じ戦う側のものだから、伝達出来る方法があるのだとすれば。
「テオン、イルヒっ!! 姫様を頼む」
「「えええ!?」」
サクが仕掛けて振り下げた剣を、シバが交差させたふたつの青龍刀が受ける。
ぎりぎりと刃が軋んだ音をたてて、互いに一歩も譲らない。
そして、僅かシバの刀の方がその重厚感にてサクの剣に競り勝った時、サクは宙にひらりと身を翻しながら、身体を捻って仰け反った体勢のままで剣を繰り出した。
シバは器用に大ぶりの武器の刃先で掬うようにして攻撃を凌ぎ、更にはひとつですら扱いが難しい青龍刀を、軽々とふたつ旋回して操りながら、矢継ぎ早にサクに攻撃を返す。
驚異すぎる速さといい、見ているものに……、闘うふたりの武術がどれほど熟達しているかを見せつける、激しい攻防戦。
ガシャン。
再び刃を交差させ、睥睨し合うたふたり。
だがそこには当初の敵意はなく、むしろ高揚した顔で好戦的に上気した視線をぶつけ合う。