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吼える月
第18章 荒波
自分より強いものと戦うのは恐いと思うユウナは、それを嬉しいと感じるサクの気持ちはあまり理解はできないが、最強の武神将に鍛え上げられたサクにとっては、強さこそが男としての生きる指標なのだろうことはわかる。
サクは、ハンの生き方に倣っている――。
越えられない相手を越えるために、それ以上の強さを身につけるためには、戦って強くなるしかない……、それが武人の心得だと昔ハンがサクに教えていたのを訊いたことがある。
だとすれば、サクはハンを越えるために、強いものを求めているのだろう。ハンと繋がったその血肉が、強さを求めているのだ。
ならば自分も。
晩年はどうであれ、一国の主として最強の武神将を率いた父のように、称賛されて民から慕われた存在になりたい。越えれるだけの強さが欲しい――。
「お嬢――っ!!」
そんな夢を馳せていたから、気づかなかったのだ。
「姫様――っ!!」
海面から天に昇るように飛び出た、巨大なものの出現を。
「青龍だ、怒れる青龍が、僕達を食らいに出て来た――っ!!」
ユウナはサクに、イルヒはテオンに押しのけられて、それの爪からの斬撃から逃れることは出来た。
船の一部が簡単に削がれる。
ウオオオオオオオオ。
猛るように吼えたそれの浅黄色の体は、蛇のように長い形状を持ち、きらきらと輝く鱗に覆われ、垂直になれば天を突き破るかのように巨大になる。
両手らしき手には、シバが持つ青龍刀の刃などよりもさらに大きく長い剣呑な爪。
天を仰ぐその顔はふたりからは見えない。
「これは……、お父様が昔見せてくれた絵巻物の、"龍"……っ!?」
「だったら……、これが……蒼陵の神獣、青龍の姿……だと!?」
子供達は腰を抜かし、ユウナは勿論サクですら、青ざめた顔でそれを見上げるばかり。