この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第18章 荒波
虹色にも見える煌めきを放つ鱗。
それに覆われた、天をも突き破りそうな巨大すぎる長い胴。
ひと振りで船を瓦解させる鋭い爪。
猛る声はひとを射竦め、震撼させる――。
まだ見ぬ顔など、慈愛深く優しげではないことは確信がある。
ひとにとって畏怖対象である伝承の神獣を、サクは初めて視覚に捉えた。
サクが体内にその力を宿す玄武ですら、サクは見たことがない。あくまでサクが見聞して作り上げた想像上のものに留まり、今のイタチ姿も新生玄武に言われるがまま、自分の想像力を具現化しただけのものであって、玄武の真実の姿はサクにも知らない。
サクからしてみれば、玄武はあくまで黒い巨大亀にしか過ぎず、今でも平伏したい恐ろしい姿のイメージはまるでなく。
その点、今目の前にいる異形の存在は、確かに……身震いするほどの畏怖や威圧感は感じる。
自分と存在の次元が違うとは感じる。
だが、なにか違うとサクの直感は告げるのだ。
なにか――。
「青龍が"こんな程度"であるのなら、俺を散々いたぶったイタ公になる前の玄武の方がよほど強い」
そう、神獣がひとつ……青龍だと確信出来ない。
同種の神獣の力である玄武の力が、特殊な反応をみせない。
ざわめかない。
「姫様。4つの神獣の力は、共鳴しあうものだと聞いています。だけど玄武の力を宿す俺には、なにも感じない」
「どういうこと!?」
グォォォォォォォ。
海面を荒く波立てる、轟くような壮絶な重音――。
雄叫びなのか、動く際の音なのか。
子供達は怯えてガタガタ震え、ひとかたまりになっている。
その中でテオンだけが彼らを守るように両手を拡げて、励ましている。
「多分解答は、あのシバという奴が知っているんでしょうよ」
サクが促したシバは、船の帆柱に飛び乗り、跳ねるように移動し、高い位置から青龍刀で浅黄色の怪物に切りつけていた。