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吼える月
第18章 荒波
「武器を取っても、素手で首を絞めにくる。当て身を食らわして口から泡吹いても白目剥いても、まだ起き上がって狙ってくる。気絶もしないのなら、息の根止める以外にどうすればいいと思う?」
テオンが肩で息をつきながら、ユウナに聞く。
「あたしの方が聞きたいわ。……ねぇ、この子達……やけに女女うるさいけど、女は海にいてはいけないものなの?」
「海は神聖な男の場所とされる。そこに……その、月に一度は女って血を流すんでしょう? 不浄な女は海を穢すものとして忌み嫌われるんだ」
「……っ」
「あたいは……まだだから。髪を切って男になることを主張したから、船に乗れたんだ。だけど……本来船に女が居る場合は、船の安全を祈願して、海に供物を……青龍に捧げ物をしないといけないんだって。だけどそういうのは兄貴が必要ないって。だからあたい達はしたことなくて。近距離だし、こんなの出たの初めてで……」
海に供物……。
「青龍は、海の……水の神様なの?」
ひらり。
子供の攻撃を躱しながら、ユウナは疑問を口にした。
「と、思うよ。だって蒼陵は海の国だし、青い龍は海にいると言われてるし。本来僕達も、ジウによって海に生きたまま供物にされるところだったんだし」
"と、思うよ"
つまり、子供達には青龍とはいかなるものなのか、はっきりとした定義はなされていないのだ。全ては曖昧な口伝えなのだろう。
つまり、蒼陵は黒陵ほど神獣の信仰はないのだ。
「………。"生きたままの状態"が青龍の供物とされるのなら、どうしてこの子達は"死んだ状態"の供物を捧げようとするのかしら?
女を青龍に捧げよとこの子達はいうけれど、海にとって不浄なものを、海にいるとされている青龍が本当に望むのかしら? もしもあたしが青龍なら、不浄な死体を捧げられたら怒るわ。馬鹿にしているのかって。
貴方達が聞いた口伝では、どうだったの? 生きたまま? 死んでもいいの?」
「そういえば、あたいのお爺ちゃんは"生きたまま"って言ってた気が……」
「え、え? ぼ、僕そこまでは……」