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吼える月
第18章 荒波
蒼陵の民に伝わる曖昧すぎる伝承。
供物の必要がないとしたのは、青龍をよく知り民を護るべき立場にいる武神将や祠官ではなく、青龍の武神将の……隠匿されし息子。
その息子に従って、海に女を連れて青龍に供物を備えなかった結果、青龍が怒って供物を要求した?
そんなことは――。
「ありえないわ。大体、神獣はひとを護るために存在してくれるの。もしもお怒りであったとしても、そうであればきっと供儀など必要とせず、もっと大々的にやりこめると思う。これなら…あまりに」
そうだ。
どうしてもこれは――。
「人間過ぎると思うの」
ユウナは、吐き出した言葉にしっくりくるものを感じていた。
神獣らしからぬ、なにかの"意志"の存在があるように思えた。
だとすれば。
間違いなく、この怪物は神獣ではない。
「貴方達は正直なところどう思う? 青龍だと思っているの?」
テオンは、ユウナに向かった子供の背中に肘撃ちをしながら答えた。
「僕は……神獣の青龍じゃないと思う。うまく言えないけど、神獣ならもっと感動的な気がする」
「あたいも。爺ちゃんから聞いていた青龍っていうのは、海をひと飲みするくらいに凄い力を持つって聞いてたし。あれはただ馬鹿でかいだけで、ただばたばたしているだけじゃないか」
二人の目は、冷静だった。
「きっと、そこが貴方達とこの子達との違いかも知れないわね。この怪物を青龍だと思って怖がればこそ、抗えないと絶望すればこそ、そこを突かれた気がする。だったら、これが青龍ではないとわかればどうなるのかしら」
「え?」
「蒼陵の民にとっての神獣の地位がどれだけのものかはわからない。だけど神獣が最高位にある人外の存在であるのなら、それ以下のあんな"怪物"など、青龍の加護さえあればなんとか出来るっていう安心感にならないかしら」
「でも、お嬢。操られているんだよ!?」
「操られているのは恐怖心よ。その恐怖を克服出来た時、あの怪物の拘束を断ち切ることが出来ると思うわ」
それはユウナなりに考え出した結論だった。
ユウナとサク、シバ、イルヒ、テオンはなんともないのだ。
赤い目の子供達と、自分達のどこに違いがあるのか――。
それは恐怖を上回るだけの"なにか"があるかないか、だ。