この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第18章 荒波
ユウナにとってもあの怪物は恐い。
だが、それ以上の辛くて恐い体験をして今に至り、さらに言えば、ユウナには、サクという心強い武神将がいてくれる。
サクは勿論、シバも子供達を護ろうと。
テオンとイルヒは、ユウナを含めて仲間を護ろうと必死で。
自らの戦慄を勇気に変えられるのは、護りたいという気持ち。
それを見せつけられれば、ひとは信頼から強くなれる。
外部の力など弾ける。
だが――。
恐怖から自己保身に他人を攻撃する8人の子供達は、どんな説得も耳を貸す状態ではない。
「操られている状態でも、一目瞭然にて納得出来るような刺激を与えれば……」
言うは易く、行うは難し。
「女を、青龍様に捧げれば」
「そうしたら怒りが収まる」
「俺達は救われる」
どうする?
ユウナは疲労に乱れた呼吸を繰り返しながら考えた。
操られたことでより凝り固まった思考を、瞬時に溶かすような方法は? この子供達を傷つけずに、救える方法は――?
視界に映るのは、倒れかけた柱。
帆を掲げるための縄が別の柱に引っかかり、なんとも中途半端な状態で斜めになっているようだ。
ざくっ。
不穏な音に慌ててそちらを見れば――。
「イルヒ!?」
切り裂かれたイルヒの胸元。
そこから飛沫が、弧を描いて噴き出た。
「イルヒ、イルヒ――っ」
テオンが泣きながら駆け付けぐったりとしているイルヒを抱き起こす間、ユウナが剣で少年の短刀を弾いて、剣呑な武器を遠くに蹴り飛ばした。
「イルヒ、イルヒ!! 目を開けて、イルヒ――っ!!」