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吼える月
第18章 荒波
すると――。
「!!!!?」
ころん……。
イルヒの裂かれた胸元から、なにかが飛び出て転がり、子供達の攻撃をなんとか撃退したユウナの足元にて止った。
それは――。
「まあ、イタ公ちゃん!!」
行方不明になっていた黒い子亀だった。
「ああ、びっくりした。あたい、この子入れてたのすっかり忘れてた。甲羅で護ってくれるなんて、この亀、なかなかやるじゃんか。この亀、お嬢の知り合い?」
「あれ、あれれ? イルヒから飛び出た水飛沫……、血じゃなくてただの水!? え、どうして!? この亀がおしっこ!?」
不可解さに首を捻るテオンの横では、
「偉いわイタ公ちゃん~、後でネズミたっぷりあげる。よくやったわね」
そんな不可解さなどどうでもいいというように、ひたすら涙を浮かべて感嘆の声を上げるユウナが、その甲羅に頬をすりすりしている。
「お姉さん、なんでネズミ?」
「亀ってネズミ食べれるの?」
亀はなにか訴えたそうにユウナの頬のもとで両手両足をゆっくりとぱたぱた動かしたが、ユウナにはその亀の気持ちがわからない。
恐かったと訴えているのだろうか。
もっと褒めて欲しいと言っているのだろうか。
ユウナも、イルヒもテオンも気づかない。
明らかにイルヒの服の裂かれ具合の方が亀の体長より大きいのに、イルヒの体には傷ひとつ負っていない事実を。
その理由を知るのは、玄武の力の波動を生んだ主と心で交信していたサクひとり。
「イタ公っ!! ひとには禁じていたくせに、"これは最低限の反射的な自己防衛だからいいのだ"なんて、なに姫様にすりすりされてんだよ、お前――っ!! すりすりは、俺だけの特権だぞっ!!」
「……ねぇ、お嬢。なにやら猿が上から騒いでいるけど……」
「猿……お兄さんって……、面白い人だね。あんな状況なのに、まだこっちのこと気遣う余裕があるんだ? ……お姉さん、お兄さんといつもすりすりしてるの?」
「……し、知らない」
真っ赤な顔で返答自体を却下したユウナの頭は、亀への感謝で一杯だ。