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吼える月
第18章 荒波
頭の中では既に、この小さな亀が体を張ってイルヒを護ろうと、果敢な勇姿を見せたのだと、……実は成り行き任せであった現実が、彼女に都合良く美化され、亀への好感度はうなぎ登りだ。
亀の甲羅に好意の口づけを落とせば、言葉にならないサクの怒鳴り声も激しくなる。テオンとイルヒがうるさいなと顔を歪めた――時。
「うわあああああ」
突如大きな揺れが船を襲った。
平衡感覚を保つために必死になったユウナの手からは、小さな亀がつるりと滑り落ち、斜めになった甲板をするすると滑りゆく。
「待って、待って。イタ公ちゃんっ!!」
小さな亀を追うユウナは気づかなかった。
赤い目をした子供達の動きを。
「お嬢、捕まえたよ、亀……って、え!?」
横から飛び出した子供達は、海に放り出される寸前の亀を手にしたイルヒを、どんと手を伸ばして突き落としたのだ。
「イルヒ――っ!?」
テオンが子供達を全力で押しのけている間、片手で柱を掴んだユウナが、反対の手を伸ばしていたが、手が届かない。
そんな時、ユウナはまだ遠い距離だったが、見た。
海面に飛び出た、鋭く尖った三角形をした背びれらしきものが、こちらに近づいていることを。
「あれは、人食いサメといつも一緒に行動している"掃除屋"……人食い魚だっ!!」
テオンが叫んだ。
「あれは小さいけど群れて行動するんだ。血を嗅ぎ付けると一斉に食らいついて、骨にしてしまう……サメよりある意味恐い魚なんだよっ!」
「なんで海にはそんなものばっかり!! イルヒ、イルヒ……そうだわ、あの柱によじ登って!!」
「お嬢、無理だよ。あたいの身長は届かないっ!!」
「効くかわからないけど、今僕がサメ除けの餌を……いや、僕が助けに行くからっ!!」
「来るな、来ないでテオン!! もう無理だっ!! テオンまで危ない目にあうことない――っ!!」
イルヒは翻弄される波間から声を張り上げた。
「これで……、あたいの命で、きっと神獣は皆を助けてくれる。神獣はありがたいものだって爺ちゃん言ってた。だから……、あたいは……、このまま神獣への供物になる!!」
「イルヒ――っ!?」