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吼える月
第18章 荒波
『小僧』
サクのことをそう呼ぶのは、ひとり……いや、一匹しかいない。
今まで雲隠れしながらぐうすか寝ていたらしい新生玄武が、サクの心に交信をしてきた時は、ちょうどサクが切りつけた怪物の再生力に舌打ちしていた時だった。
斬っても斬れぬ怪物――。
それを相手にしているシバはなにも取り乱すことなく、黙々と斬りつけるだけであり、それを怪訝に思いつつ、武器が駄目なら新たに手に入れた力を向けるまでと、集中していた矢先のことだった。
『我の力は使えぬ』
声はするが姿は見えず。
『神獣は、互いの領域に干渉できぬ決まりがある。ここは、我の力が及ばぬ青龍の領域。青龍が自ら例外的に認めぬ限りは、青龍以外の神獣の力はすべて無効化される』
そんな時、ユウナ達の……やや押され気味の奮闘を目にしたサクは、慌ててかけつけようとしたのだが、
『小僧はそこにおれ。姫には我がついておる』
力が出ないイタチがなにが出来るというのか。ユウナを護るのは自分なのだと口に出せば、シバが驚いた顔をしてサクを見た。気狂いにでもなったか心配したらしい。
自分は正気だ、余計なお世話と言い放つサクは、
『完全には読み取れないが、あの姫……中々いいところに目を付けた。ならばそれに乗るまで』
姿が見えないが、無意識下で繋がる同種の力の微動をわずかに感じる存在が、ユウナの近くにいて彼女の思考を読み取っていることを知った。
『我と契約していないのに、なぜ姫の考えがわかるかと? それはだな、我と契約した武神将たるお前が、姫と交わったからだ』
その時、その意味がわからずサクは手を止めて呆けてしまった。