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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
明かりが消えた祭壇の間。
祭壇に飾られた玄武の神像が、窓に大きく映る赤い月の光に照らされて、血に染まっているかのような凶々しさを見せつける。
「お父様……?」
ぼんやりとした月明かりが、部屋の隅に朧な輪郭を浮き彫りにさせる。
なにか……人影があった。
それはこちらに背を向けて立っている。
それは父だと思った。
立っているということは無事なはずだ。
だからユウナは、まだ賊の手が父に及んでいないのだとほっとする。
「お父様、ご無事ですか……?」
ユウナの声に、それは僅かに体を震わせた。
そして、ユウナは見たのだ。
「お父――……」
すべての音も、すべての時間も……すべての思考も停止した。
それは父ではなかった。
闇慣れしたユウナの目に映るのは……白銀の長い髪。
倭陵では禁忌とされている、光り輝く髪の色。
ユウナは咄嗟に予言を思い出す。
これは……倭陵を滅ぼす、悪しき"異端者"だ。
「お父様は……お父様はどこ!?」
警戒に声が震える。
白銀の者は、ひとつ深呼吸をしてこちらを向く。
その顔を見る前に、その者が手にしていたものに目を奪われる。
片手には、力ない父。
反対の手には、父の胸を貫く小剣。
「お父……様……?」
どさり。
ユウナの目の前で、父が放られる。
どくどくと……床が父の血を拡げていく。
「お父様……お父様!?」
抉られている胸。
すでに父は絶命している父の前に座り込み、ユウナは泣きながら動かぬ父の冷たい体を揺すぶった。
「お父様、お父様っ!!」
そして――。
「いやああああああああ!!」
ユウナは悲鳴をあげた。