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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
ぽたり、ぽたり。
刃先から父の血を滴り落として、ユウナに近づいて来る者。
……声がした。
「ひとつ聞きたい……」
ユウナは涙で滲んだその視界の中で、はっきりと確認した。
その賊の顔を。
睥睨から驚愕に、その目は見開かれる。
涙すら、驚きで止まってしまうほどの。
なにかの間違いであればいいと願った。
これはきっと、凶々しい月が見せた悪夢なのだと。
これ以上、関わっては駄目。
これ以上、これは現実だと受け入れては駄目。
「この惨状の中で、君は……僕の身の心配はした?
僕は……こんな状況ですら、やはり"2番目"なの?」
忘れるはずはない。
この甘やかな声を。
ずっと傍で聞き続けてきた声を。
怪しい白銀色の髪を靡かせるその者は――。
父の胸を剣で貫いたその者は――。
そして恐らく、玄武殿を血に染め上げたのは――。
「なんで……なんでよ、リュカ――っ!?」
今夜から夫になるはずの……リュカだった。