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吼える月
第19章 遮断
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海に浮かぶ浮島に、ひとから忘れられた集団が住まう岩窟がある。
集団は自らを『海吾(かいご)』と名乗り、たとえひとに忘れられても、海に吾(=我)は居るという自己主張をしていた。
国の恩恵を受けられぬ彼らは、海を往来する大きな客船を襲い、その荷物と人間を他国に売り捌いて生活している。
それは海の国蒼陵にとっては珍しくもない『海賊』というものではあるが、海をよく知らぬものにとっては、茫洋たる海で賊に襲われても抗することもできず。
海賊の被害者が運良く命からがら蒼陵に流れ着いたとしても、年寄と子供しかおらぬ国には打つ手はなく。海賊を討伐する立場にいる蒼陵の警備兵を仕切る武神将や祠官に直訴を試みようとしても、海の大渦の中にある青龍殿まで行き着くことも敵わない。
海賊にも義賊から悪賊まで様々な種があるが、海吾と呼ばれる海賊はひたすら構成員の生活維持のためだけの略奪であり、襲うのは、他国よりあくどく儲けた悪賊に類する者達が乗った船だけという特徴があった。
海賊『海吾』――。
ギル=チンロンなる男を頭領に、片腕となるシバ、それ以外は皆、青龍の武神将が発令した蒼陵の掟の犠牲となった子供達で構成されている集団が、ここ最近頻繁に海に出没しているのは、理由があった――。
~倭陵国史~
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