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吼える月
第19章 遮断
『……倭陵における我らの配置は、盟約により多くは語れぬが、我らの力を牽制して均衡化するために、司る力に対して相克すぎず相生すぎぬ土地の守護を基本としておる。そこから思えば、青龍がここまで水水しい地となるのを許し、海に祭壇を許した理由がわからぬ。我の得意とする水に傾きすぎだ。
この国から望める大陸の景色を見たい。もしも我が思ったことが真ならば、この国は……もしや、海の上に"浮かんで"作られたことこそが、青龍不在の理由やもしれぬ』
それきり考え込んでしまったようで……、それ以上はサクがなにを話しかけても返答が返ってこなかった。
やがて――。
「ああ、あたいの亀、また逃げ出したと思ったら、猿が捕獲して頭に乗せてくれてたのか――っ!! でかした、猿!!」
近づいてくるイルヒの声を聴き、イタチが飛び上がったようだ。
それは喜びよりも、恐怖に近い。
「どうして亀のくせに逃げ足が速いんだろう!! いつ逃げているのか、全然あたいわからないんだよなぁ。はい猿、返して」
『これ、これっ!! 我を助けぬか!! 我は今、船を動かして力を使い、腹が減ってうまく動けないのだ。これ』
げしげしと、小さい足でサクの頭を蹴るイタチ。
「……また、腹減っているのかよ。へいへい。イタ公さんにあとでネズミをとってあげましょうかね。イルヒ、ちょっとこいつに用があるから、貸してくれ」
『我は娘の所有物ではあらぬ。そこを説明せよ、これ、これ!!』
げしげし、げしげし。
小さな足の爪に髪が引っかかって、サクに若干痛みをもたらした。
とりあえず頭の上から手で摘まみ、腰を屈めて目線の高さに持ち上げてイルヒに言う。
「え……あぁ……。実はこいつ、俺と姫様が可愛がっているものなんだ。名前はイタ公って言ってよ。あとで返すから。ちょっとだけ」
『返さぬともよい、これ小僧。我を護るのだ』
「なんだ……お嬢のだったのか。そういえば、亀ちゃんをよしよししていたの見たっけ……」
『これ小僧、我は亀ではあらぬと言い返さぬか』
ぴしぴしぴし。
今度は、長いふさふさ尻尾をサクの額に叩きつけて急かす。傍目では亀の小さな尻尾が微妙に揺れている程度だが、イタチを知覚するサクには、ふさふさの攻撃は結構なもの。大体目に入るのが邪魔この上ない。