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吼える月
第19章 遮断
「あぁ……と、イルヒ。こいつのことなんだがな?」
「わかったよ。子亀ちゃん、見るからに弱々しくて海に滑り落ちて溺れて死んじゃいそうだから、ちゃんと見張っててよ!?」
『………。なんと、我が"子亀"の上に、我が司る水の中で溺れ死ぬほど弱々しく非力だとな!? 子供だからと大目にみていたが、あまりに口がすぎると、船を沈ませるぞ。そう、しかと伝えよ。これ、これ』
ぴしぴしぴし。
「あぁ……なあイルヒ。実はこいつ、亀じゃなくイタ……」
「イタ?」
「――いたいた、サク。皆が休憩しようって呼んでいるの……って、えええ!?」
その時現われたのはユウナ。サクを探していたらしい。ユウナは、サクが摘まんでいる"それ"を見て、目を大きくさせて固まった。
「おや、どうしました、姫様」
「サク、サク……それ、その白いふさふさのなぁに? 可愛い、そのふさふさの生き物可愛いっ」
「……ああ、姫様はイタチを見たことがないのか。けど姫様、突然見えるようになったということは、"すりすり"でそこまで力が!? 別れた時の親父より上ってこと!?」
思えば、呪詛による発作時――。
サクとユウナが繋がったままの時に初めて現われたイタ公は、イタチの姿のまま……そのふさふさな尻尾でユウナを悶えさせていた気がする。
ユウナとより深く交われば、ユウナに自分の力が少し移譲して、イタ公はどこまでも自分が見ているのと同じイタチとなる――。
"同じもの"を見れるというのは、交わった証拠が残っているということ。
ふにゃりとにやけてしまったサクの前、イルヒが目を剥いてユウナを揺さぶっていた。
「お嬢……っ、亀だよ、あたいの……いやいやお嬢の亀ちゃんだよっ!! 海水が目に入って、目がおかしくなっちゃったんじゃない? 確かまだ積んでいた真水が無事だったはずだから、お嬢、目を洗浄に行こう? 猿、亀ちゃん逃がさないでよ!?」
「あ、姫様……」
『やはりおかしいのはあの娘だけだな。小僧、後でとくと言い聞かせるのだぞ。亀は白くてふさふさしておらぬと。もしやひととしての常識すらついてないのかもしれぬゆえ』
イタ公が騒いでいたが、顔を緩ませているサクには届いていなかった。