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吼える月
第19章 遮断
シバ同等の力と統率力があるサク――。
それに対し、自分は役に立たないことを悟るユウナは、出来ることをしようと積極的に働いた。
船の修繕技術を持つ子供達にとってみれば、誰でも出来る道具や武器の運搬が主であるけれど、あちこちから声をかけられても笑顔できびきび動くユウナの存在は、作業を円滑に進ませる上でかなり重宝された。
子供に使われる彼女が、かつて多くの使用人を抱えていた一国の姫であることを知るものはサクしかおらず。サクはおとなしくしていて欲しかったが、嬉しそうに"使われている"ユウナを見ていれば、苦笑して黙認するほかなかった。
そして――。
補修が落ち着き、この船の責任者たるシバの「休憩」の号令後、いなくなったサクを連れ戻したユウナは、サクと共に騒騒しい子供達に取り囲まれながら、密やかにため息を零していた。
ああ、なんて魅惑的な白い"ふさふさ"だったのだろう――。
目の洗浄を言い張るイルヒに連れられ、サクに背を向けて少し歩き出した時、突如響いた「ネズミだ」という子供の声。その直後、目の前を凄い勢いで横切った後に行方不明になったらしい"それ"を思い返す度、ユウナは子供に向ける笑顔の裏で切なげなため息をつく。
すりすりしたかった。
ふさふさに顔を埋めたかった。
首に巻いてみたかった。
ユウナから出る何度目かのため息を、サクは忌々しげな顔で盗み聞きしながら、こちらもやるせなさそうなため息を零す。
まるでユウナは恋する乙女。
自分に見せて欲しい、あのやるせないような憂い顔。
本当はつるっつるの亀なのに。
二本足であるく変な"イタチもどき"なのに。
ネズミを見ると血相を変える、本能で生きる"神獣もどき"なのに。
「絶対、すりすりさせねぇ……っ。すりすりは俺の特権だ!! ……けどよ、俺とすりすりしたからふさふさ姿が見えるなら、俺とすりすりしなければいいだけの話か? ……。……なんだよ、この消化不良感。……はぁっ」
何度目かのサクのため息を耳にしていたのは、ひとり離れて使用していた武器を黙々と磨き、近くに積み上げに来たシバだけ。
闘い中にも聞いていたサクのおかしな妄想癖が再発しているのだと、こちらも哀れんだような……やるせなさそうなため息をついたのは、誰も知らない。