この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第2章 回想 ~遭逢~
「この馬鹿息子!! お前は俺と、"遊びに行きたい"と駄々をこねた姫さんの護衛でこの街に来てるの忘れたのか!! 姫さんと一緒に俺から逃げるなんてどういった了見だ!?」
父の剣幕に、宙に浮いたままの少年はひっと悲鳴を上げて両手で頭を抱えた。
「ハン、サクが悪いんじゃないの!! 悪いのはあの商人よ!? あたし達見たんだから。弱い者いじめしてるの!! ハンは黒陵で一番強い"玄武の武神将"で、警備隊長なんだから、悪いひとを取り締まらないと駄目じゃない。あたしはサクと、ハンに代わってお仕事してあげたのよ!! あたし、悪い奴から取り返してあげたんだから!!」
宙に浮いたまま、少女は両手に抱えた壺を見せると、得意げに胸をそらした。
「ほぅ、悪い奴を取り締まるのが俺の仕事ね」
「そうよ。だから"偉い、よくやった"と褒めて貰わなくちゃ」
すると男は、にやりと笑って言った。
「無理矢理の搾取の末のものでも、それを強引にかっぱらえば、姫さんはれっきとした"強盗"だ。俺はちゃんと仕事をして、姫さんを牢獄に入れねぇとな。
牢獄は恐いぞ? 恐い奴らが沢山いて、姫さんを八つ裂きにするかもしれねぇぞ? だけどまあ自業自得だな。ほら、お前もだサク。俺の息子なら、姫さんの代わりに八つ裂きにされるだけの心意気見せろよ」
「な、ち、父上!?」
「ハン!? や、やだよ、八つ裂きなんて、あたしもサクもやだあ!!」
震え上がったふたりの子供を地面におけば、完全に怖がってしまったふたりは、互いに抱き合うようにしてびーびーと泣き始める。
「ちょっといじめすぎたかな」
そう苦笑しながら、男……ハンは、少女の持つ壺を手にして、傍に控えていた部下にそれを手渡し、持ち主に返すように指示をする。