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吼える月
第19章 遮断
「見えたぞ、俺達の"家"だ!!」
太陽が傾き、地平線に黒いもやのような影が出来はじめた時、どこかで子供が叫び、呼応したように大勢の歓喜の声が上がった。
互いに高い位置で両手を叩いて喜び合う子供達の中にはユウナの姿もあり、完全に彼女は子供達の仲間の一員となってしまったようだった。
「よし、降りる準備をしろ!!」
「おぅっ!!」
シバの号令に、子供達とユウナの右手が勇ましく天に向かって突き上げられる。
「さぁあたしは、あっちのお片付け、お片付け……」
もう誰かに指示されなくともユウナはひとりで動けるようになっている。
どの部分で自分が必要になるのか、無意識に悟り始めたようだ。
自ら動けば動くほどに、必要とされればされるほどに、ユウナは活き活きと充実とした笑顔を見せ、疲れ知らずに働く。
それをサクは優しげな眼差しで見つめていた。
肩に軽々と担いでいるのは、重い武器の数々。子供達の何倍もの力仕事を難なくこなし、シバ同等の信頼を受けている。
そんなサクの頭の上にいるのは、白いふさふさイタチ――基、子供達の目から見れば、手に乗る大きさのただの子亀。しかも長身のサクの頭上に居るのだから、背伸びしても見えるものでもない。
ユウナが抱きしめていたふさふさイタチは妬いたサクが奪い、代わりにイタチより自分を抱きしめてくれ、自分ならもっとユウナに気持ちよくさせられるからと両手を拡げたのだが、それはお気に召さなかったようだ。
――どうしてそういうこと、平気でつらりと言えるの!?
――なんで逃げるんです!? 俺は別に……あまりに姫様がイタチのふさふさが気持ちいいというから……。だったら俺だって……。
――サクはふさふさしてないでしょう!? 気持ちよくなんか……。
――でも姫様、俺に気持ちいいってあんなに喘い……。
――いやああああああ!!
――いいか、お前達。あの卑猥で無粋な妄想癖のある唐変木の分も確り喰え。
真っ赤になって怒り顔を見せるシバの指示により、サクとユウナの会話の意味をまるでわからなかった子供達が喜んで豪華なシバの手料理をたいらげ、サクが誤解を解いて戻ってきた時には、サクの分の昼餉は既に残っていなかった。