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吼える月
第19章 遮断
そして――。
――あれ、サクの頭にいるのはいつの間にか亀のイタ公ちゃん……? イタチのイタ公ちゃんは?
ユウナからは次第にイタチ姿に見える玄武の力は薄められていった。
――イタチはネズミ追ってます。あっちに。
ふたり睦み合った思い出が消えて行くようで面白くないサクは、依然体を丸めた白いイタチを乗せながら、若干拗ね気味にあさっての方向を指さした。
亀同様にネズミを追う、亀と同じ名前の白いイタチ。
その奇妙な符号を疑問に思わずして、ユウナは寂しそうに首をさする。
――風強くなってきたし。イタチのイタ公ちゃんを首に巻いたら、首のすぅすぅ防止できると思ったのに。
『小僧、我も姫の首に巻かれたい。花のようなイイ匂いが……』
――駄目だって言ってるだろ!? もし我が儘いうなら、イルヒに思いきり投付けて貰うぞ?
『ひ!? 小僧の頭でよい。あの娘は嫌だ。我で遊ぶあの非道な娘は嫌だ』
――あたし……イルヒは好きだけど、投付けられるのは……。
――姫様のことじゃねぇんです。ああ、もう。泣かないで下さい。
そんなこんなで、時が進み……、よくやく目的地が射程内となった健在。
「ははは、姫様楽しそうだなぁ……。俺だけが姫様を笑顔に出来るってわけじゃねぇのが複雑だけど、だけど暗くて哀しそうな顔を見るより、よっぽどいい。それだけでもう、船に乗るために苦労した甲斐があったってもんだ」
『だったら。他のもとで幸せになる姫を、こうしてずっと見守る立場でいることにしたのか、小僧。小僧が残滓を植え付けた、あの"いちゃいちゃ"の時間は諦めたのか』
「諦めてねぇよ!! つーか、残滓ってのはよせ!! 出してねぇよっ!!」
サクは頭上で仁王立ち状態にいるイタチに怒鳴れば、わざとらしいシバの咳払いが聞こえた。
「あいつ、生真面目すぎるんだよな、考え方が。まあ、俺も浮かれすぎかもしれないがな……」
サクは苦笑した。
「で、どうだ。イタ公。海に浮かぶこいつらの根城が見えてきたらしいが、なにか感じるか?」