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吼える月
第19章 遮断



『ふむ……。ふむ、ふむ……』


 なにやら考え込んで、結論をまとめたらしいイタチが、言った。


『小僧、この位置が我とすれば、黒陵はこちらの方角か?』


 サクの頭上をばんばんと踏みつける小さな足が、思う方向を尋ねる。


「そんな小せぇ足の感触じゃわかりにく……だからって足の爪で引っ掻くな、髪を引っ張るな。お前、玄武の武神将の頭が、本当のお前みたいにつるっつるだったら嬉しいか? 黒陵の神獣と武神将は、つるっつる神とつるっつる髪で、お似合いって笑われるぞ。そこまで同じものを武神将に求めるか!?」


 イタチの動きが、ぴたりと止る。思うところがあったようだ。


「嫌なら俺の掌まで降りて来て、方向示せ。俺にも見えるように」


『我は崇高なる神獣。馬鹿な小僧に見下ろされる低い位置にいるのは嫌だ』


 サクより高い位置に立つことで、神獣なりの矜持を示していたらしいイタチ。


「お前なぁ……」


 思わずぼやけば、突如白イタチの逆さまの顔が、ぬっと上から降りて来た。


「わわわ、突然なんだよ、驚かせるなよ」


 小さい両手で、サクの前髪を掴んで平衡感覚を保っているイタチは、くりくりと、愛らしい目を動かして言った。



『我、ふむふむして"踏む"なり』





「………」



『いっいっいっ』



 呆気にとられたようにぽかんとしていたサクが、イタチの奇声に顔を引き攣らせた。


「ど、どうした、イタ公。ネズミ喰いすぎて、変になったのか? それとも単純にしゃっくりが止らないだけか!?」


 とりあえず、直前の寒い言葉を完全無視の方向でいくことに決め、サクはイタチの体調を本気で心配する。


『違うわ!! 滅多に笑わぬ我の笑いだ。貴重だぞ、堪能せよ。そんなことより……ふむと"踏む"。いっいっいっ。小僧も、我慢せずとも素直に笑うがよい。小僧は馬鹿だが素直だけがなんとか取り柄ではあらぬか。我が許す。はよ、笑え。はよ。ふむと"踏む"……いっいっいっ』
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