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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
違う、違うっ!!
これはリュカなどではないっ!!
ユウナの心にある微笑むリュカが木っ端微塵になりそうで、ユウナは絞るような声を出して、必死に抵抗した。
「やめろ外道っ!! あたしに近寄らないでっ!!」
くらくらと幻惑されるのを堪えて、男を突き飛ばしながら刃物を振り回せば、男の手の甲に赤い線が走った。
「あ……っ」
動揺したのはユウナの方で、男は妖しげな笑みをすっと消し、代わって無感情を殺したような冷ややかな面差しで、ただじっと……ユウナに切られた傷を眺めている。
怒っているのか、傷ついているのかよくわからない。
闇に仄かに光る銀の髪が、さらりと男の翳った頬を覆い隠した。
銀……。
そうだ、髪の色――っ!!
「リュ、リュカは……そんな髪の色をしていないっ!!」
立ち上がろうとしても、腰が上がらない。
座したまま、男と距離をとったユウナが毅然と言い放つ。
その視線は、手にした刃より鋭いものとなっていた。
ユウナの脳裏に、真紅の残像が乱れ飛ぶ。
血まみれの骸の山。
襤褸(ぼろ)のように放られた父の骸。
それをしたのがリュカだということを信じたくない。
男がリュカではないと証明したい。
リュカにはありえない相違点を見つけたことが、ユウナの心の砦だった。
リュカと酷似した顔を持つ者がリュカを騙っていると断言できるのは……隠しようもない髪の色だから。
白髪とはまた違う、この白銀色は……どうみても天然の色。
予言に謳われていた、魔に穢れた色――。
それはリュカに持ち得るはずはないのだから――。
「これが、本当の僕の髪の色さ」
男の目には、殺気にも似た狂気が宿る。
つい先ほど、ユウナの髪を握った負傷した手で、自らの髪の束を握りしめながら。
「生まれながらに僕の髪の色は銀色だった。倭陵では忌み嫌われる光の色。烙印までつけられて、人としての扱いなどされてこなかった。
君も見ていたはずだ。初めて会った時の……無様な僕の姿を」