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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
ユウナは思い出す。
出会った時の……骸かと思われるほどに、痛めつけられた凄惨なあの姿。
烙印――。
ハンを躊躇させたその存在を忘れたわけではない。
ただ友情には無関係だから、気にしなかっただけだ。
烙印の意味がわかっていても、きっと思ったはずだ。
あんなに弱っている小さい子供に、虐げられるだけの罪などない。髪が銀色だという理由は、あまりに不当すぎると。
リュカの瞳は冷え込んでいた。
「倭陵で生きるためには、生来を偽り、この国に馴染む色に染めるしかなかった」
単純な隠蔽策。日頃のリュカがそうしているとすぐに思いつかなかったのは、やはりいつものリュカの言動を信じ切っているせいでもあった。
「君だって薄々疑問には思っていただろう? 僕の髪の色が光にあたると、必要以上に銀色に光ることに。
僕の髪質は、黒の染料を弾く上、いつもの色以外には不自然に見えて染まるんだ。太陽の元にさえ出なければ茶色に見えていただろう?」
それは、ユウナも確かに思ったことがあった。
赤銅色が光に煌めくと、なぜ系統が近い金ではなく……銀に近づくのかと。それは、細い髪質のせいだとリュカは笑って説明していた。
揺籃で蹲っていたあの最初の頃から、確かにリュカの髪は……目映い陽光を浴びると、銀色に光って見えてはいたのだ。
「だから僕は、君とサクと遊ぶ時以外は、外に出ていなかった。いつ、誰に怪しまれるかわからないからね」
ただの本好きではないのだと。
内向的で慎み深い性格ゆえのことではないのだと。
そう立て続けに否定され続ければ、ユウナには、まるで催眠術にでもかかったかのように、この男がリュカだとしか思えなくなってしまった。
優しかったリュカがぐるぐると頭に巡る。
「倭陵が……黒陵が憎いから……
だからあたし達に近づいたの?」
――助けてくれた事が、本当に嬉しかったんだ。
ユウナの泣きながらの詰問に、男が瞳を揺らした後、光を閉ざした眼差しで口を開こうとした時だった。
「ふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!」
声と同時に、暴風が吹いたのは。
そしてユウナは――
「サク……、サク――っ!!」
偃月刀を大きく振るったサクの、その胸に抱きしめられていた。