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吼える月
第19章 遮断
ただ――。
イタチはそう前置きしてから、言葉を続けた。
『気の流れを乱しているのはひとつではない。あちらにもある』
イタチが示した斜め右奥の方角には、今はなにも見えていない。
「どういうことだ? あっちにも根城同様に、なにかあると?」
街か集落かなにかなのだろうか、とサクは考えながら目を細める。
ただし、大人がいない……子供と老人ばかりだろうが。
『我は、特殊な存在なりとも神獣には変わらぬ。その我や他同胞が、今まで青龍の消滅を感じずに、青龍の姿と力が失われている他国の由々しき現実。
ただ倭陵の地に宿る神獣の神気は強く、神獣がおらずとも滅多なことでは乱れぬ。それが乱れる要素がふたつもあるとは、さらに信じがたきこと。
我ら神獣は、代々の祠官と武神将に力を貸す立場であり、次期武神将の罷免権利と、武神将と儀式で繋がる祠官の要請には答える権利はあるものの、ひとが作る人界の諸々への干渉は、一切してはならぬ盟約。我も小僧と出会うことがなければ、こうして表に出て動いてはおらぬ。何度も言うが』
「わかってるって。イタ公は特別なんだろう? 色々と助けてくれてありがとよ」
『ふ、ふむ……。わかっていればよいが……』
サクの素直な感謝の言葉に、イタチは照れたのか俯いて頭を掻く。
『……様々な盟約に縛られているゆえに、黒陵においても、我は国内における神気の"揺らぎ"を以前より感じながら、我が再生する事態に至らせてしまった』
ネズミを食べてばかりの新生神獣だが、こうして助言したりサクの呪詛を沈静化していてくれていたりと協力的なのは、不穏さを知りながら見過ごすことしか出来なかった玄武なりの気遣いなのかもしれない……。
サクはふっと笑いながら、イタチの顎の部分を指で擽ると、イタチは気持ちよさそげに目を細めて顔を上げた。