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吼える月
第19章 遮断
『小僧、黒陵と蒼陵を隔てるその山脈、地図に描かれていた蒼陵の輪郭を、脳裏に描いて見せよ。頭に思い描くだけでよい、我がそれを覗こう』
「いいけど……。すげぇな、俺の頭の中丸裸じゃねぇか」
『今さらだ。小僧のあの姫に対する愛欲もただ漏れだ』
「み、見るなよ!!」
『垂れ流しなのだから仕方が無いだろう。それより、はよ。地図だ、姫との"すりすり"はいらぬ!!』
「――っ!!! 地図、地図……。あ、けどよ、あの根城とか、渦の中にある今の青龍殿が海のどこらへんに移ったかなど、蒼陵の地が分割した形で、海上に点在する浮島化してからの情報はねぇぞ。時期的には、5、6年前のものになるだろうが」
『尚更好都合』
サクは、ハンから叩き込まれてきた、地形図を思い浮かべた。
『ふむ……。思った通りか。狭苦しい場所が嫌いな青龍は、実に伸び伸びと……、しかも巧妙に"擬態"しながら、蒼陵を鎮護しておったわけだ。ま、数年前なれど』
「伸び伸びと……? 擬態?」
『黒陵と蒼陵を隔てる山脈こそ、山に擬態した青龍。いや、ひとが勝手に山だと思っていただけのこと、実際はそれこそが青龍の体だ』
「はあ? でかいはずだぞ、山は!! 蒼陵を囲むようにこう、斜めに……にょろっと。……にょろ……?」
『左様。青龍の体は細長い。しかも神獣は皆、大きいのだ。本来の大きさの顕現が可能になれば、国ほどの大きさになる。
恐らく山脈がひとを拒んでいたのは、青龍の力だ』
「しかし山なら、お前だって山国の神獣だろう? 今まで気づかなかったのか?」
『我はただ山に住まうだけの水神。多少は豪雨による山崩れを差し止めたり、山に関連する力はあるが、力の根源は水。それに前にも言ったが、神獣同士、管轄外は干渉も感知もできぬ盟約ゆえ、しようとも思わなかった我もまた、今知った次第。なるほど、山に化けるまでに、国にて我のようにこじんまりとした体でおるのは辛かったのか。まあそれだけが理由ではなかろうが』
神獣はひとに見えぬのが掟であるはずなのに、窮屈だということを理由のひとつに掲げて、もしも本当に山に擬態して、伸び伸びとしていたというのなら――。