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吼える月
第20章 対面
・‥…━━━★゚+
ぴちょん……。
不定期に反響する、雫が水たまりに滴り落ちるか細い音。
ざっざ、ざっざ……。
揺らがぬ地を歩く、大勢の不揃いの足音。
視界を奪われ、あたりは暗闇。いつも以上に過敏に反応するユウナの聴覚が、今歩いている場所は船の上ではなく、なにか天然の素材で作られている場所であると伝えてくる。
肌にまとわりつく冷気。
舗装されていない、ごつごつとした足場。
……洞穴のような場所なのだろうか。
海の上に、洞穴というものが存在出来れば、の話。
少し前、シバが言った。
――お前達の"借り"ゆえに、ギルの元に連れる。それまでの命はオレが保証するが、結果ギルがお前達に子供を救った感謝ではなく死を望むのなら、オレは迷いなく断行する。幾らお前達がこいつらに馴染んでも、こいつらもオレに対してとは違い、兄貴たるギルの命令は絶対だ。オレが掟をねじ曲げるのは、お前達をこの船で殺さなかったことだけだと思え。
――お前ら、掟通りふたりに目隠しをしろ。負傷者。歩ける奴は歩き、足をやられている者は、誰か肩を貸してやれ。どんな怪我であろうと、出来るだけ自力で歩け。
今までの和気藹々とした穏やかな空気はどこへやら。客になされるべきではない"丁重"な扱いを受けて、今に至る。
だがユウナは、これから先の"死"の可能性を含め、わざわざ危険を事前告知してくれたところに、子供達の要望に応じ掟通の"死"を遂行せずにいてくれたこと同様、シバの優しさを垣間見た気になっていた。
子供に対しては世話役という仕事があるためか、必要な時は介入して指示を出すが、それ以外は極力ひとりでいようとするシバ。交流を深めようと近づけば、その前に察知したようにいなくなり、接触を全身で拒絶される。
人嫌いのようなのに子供の世話は苦痛には見えず、優しいのかなと思えば、瀕死の魚を平気で捌くような残虐非道ぶり。
あれは今でも信じられない。