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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
「……はぁ、はぁっ……俺を弾く結界なんぞ作りやがって。おかげで手間取り……姫様をこんなに泣かせちまったじゃねぇか!!」
無事でよかったと安堵したユウナは、サクから鼻腔を擽る血の臭いを感じ、慌ててサクを見上げた。
「なにふざけたことぬかしてんだよ、どういうつもりだ、リュカっ!!」
サクの服は至るところが切り裂かれ、血が滴り落ちている。
「サク、怪我……っ!!」
「俺のことはいいんだよ、それよりリュカ、答えろ!!」
激しい怒りを湛えた切れ長の目。
攻撃性を高めた険しい顔は、無表情で相対する男……リュカへと向けられている。
やがてリュカは、いつものように柔らかく微笑んだ。
「さすがは未来の武神将だね。こんな程度なら駄目だったか。まぁ……初めてだから許してよ。"玄武"の力の結界は」
くつくつ、くつくつ。
リュカの喉もとでの笑いに、サクの冴えた双眸が光る。
「お前……どうやって玄武の力を!?」
サクは骸となった祠官を一瞥して、苦しそうに目を細めた。
「……祠官の……胸に穴が空いていることがその理由か」
「そこまではハンから聞いていないようだ。だけどなかなかいい勘だね。そうだよ、ほら僕のこの袖。血を拭ったあとがあるだろう?」
くつくつ、くつくつ。
リュカは笑う。
邪なるその顔で。
「僕、祠官の心臓を――……んだ」
ユウナの耳に届かなかったのは、サクが両耳を手で塞いだからだった。
「サク? なに? リュカは今、なにを言ったの?」
「聞かなくていい。聞かないで下さいよ、姫様。これ以上は、姫様が壊れてしまう。……リュカ、お前……っ」
サクが怒りに偃月刀を突きつける。
だがその寸前で、リュカはひらりと宙に舞うとサクの攻撃が届かぬ安全領域を確保したのだ。
素早いその足捌きには……いつもの引き摺りなど見えなかった。
「それもすべて……武術など出来ねぇという"真似"か。仕込み芸が細かい……ご苦労なこった」
サクは忌々しげに言葉を吐き捨てた。