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吼える月
第20章 対面
はらり……。
かつて子供達に巻いた手当のためのその布が、地に音もなく落ちた。
「お前達か。子供達を救ったというのは――」
粗雑な野太い声。
青い美貌を誇るシバが、定位置とばかりに立つその横。
蒼陵では貴重とされる「虹彩貝」と呼ばれる素材で作られた、虹色に輝く椅子に、大きく開いた足を組み、不遜な態度で座る男がひとり――。
男は、足元に駆け寄り"兄貴"と笑顔で懐く子供達の頭を順次撫でながら、獲物を見定めるような目でユウナとサクを見た。
その目は、小さいけれども射抜くように鋭く。
「――っ!!」
青龍の武神将に敵意を抱く【海吾】。
活動目的がただ子供達の"保護"だけとは到底思えぬ、大人顔負けの働きを見せる"海賊"。
シバや子供達を心酔させるその頭領は、きっと生半可な男ではないだろうとは、ふたりも思っていた。
片腕のシバですら、あれほどまでに強く美しいのだ。
だから、きっと。
ギル=チンロンは――。
そう思っていたというのに。
忘れていた。
ギルはジウの息子であるという意味を。
「………」
「………」
ふたりは思わず顔を見合わせ、そして、ふたり同時に声を漏らした。
「……ジウ殿にそっくり……」
シバの横なら尚更際立つ。
明らかに猛将ジウの系統の、獰猛な野獣のような……整っているとは言いがたい迫力ある恐い顔。
ただ、ジウのような髭がなく、ジウより若いだけ。
これであれば、武闘会に出場してはすぐに敗退していた次男よりも、余程ジウの息子として貫禄もある。
どんなに体格がよく、どんなに底知れぬ風格があるように感じても、ふたりには、どうしても記憶あるあのジウが分裂したようにしか思えず。
「ジウ殿が、にゅっと伸びて、ぽん……」
思わず心の声が漏れたのは、ユウナの唇。
同じ事を考えていたサクの唇からは、堪えきれぬ笑いが漏れる。
「ぷぷ……」
するとユウナもつられる。
「ぷぷぷぷ……」
笑いを噛み殺そうと、顰めっ面をしているふたりから、それでも漏れてしまう笑い声。
「………」
ふたりの目の前にいるジウそっくりな男は、ひくりと……、こめかみに見える青筋を、不穏気に動かした。