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吼える月
第20章 対面
人間を外見で差別してはいけない、弱者の意見に耳を傾けろと、両親やハンに教えられて育ったユウナは、美しい姫としてひとを見下ろせる立場に生まれつきながらも、その教えに背いたことはない。
だからこそ、揺籃の街で普通に民と会話していたし、"光輝く者"であるリュカをも助けようとした。玄武殿においても、唯一庶民の台頭が許される警備兵から、本で得られるより知識より面白いと、出身地方の話を強請ってもいた。
中には醜い姿態を持ち、ユウナが声をかけてくるのが恐れ多いと逃げ腰になる警備兵もいたが、ユウナはまるで気にせず輪の中に誘い、他の者達と同じように善意で(焦げた)手作りの焼き菓子を渡したりして、笑顔を見せていた。だからこそ、民にも兵にも愛される姫であった。
ユウナは別に、性格が極端に歪曲していなければ、どんな姿でも不快には思わない。逆に外見上で判断するのは、失礼だと思う。たとえ外貌が歪でも、世に人格者は沢山いると思えばこそ。
だが、今。
ユウナは実にしみじみとした心地で、ギルとサクを交互に一瞥する。
青龍の武神将の嫡男と、玄武の武神将の嫡男。
本来ならば、国や祠官を守るべき立場として、肩を並べて協力し合っていたかもしれないふたりは、生まれついた身分的に言えば同等。
だから余計に思うのだ。
武術に秀でた誉れある父を持つ、同じ立場であるのなら。
子供は親を選べないからこそ、サクの父親がハンでよかったと。サクは運がよかったと。