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吼える月
第20章 対面
  


 そう考えれば、自分もまた、恵まれているのかも知れないとユウナは思う。


 武闘大会で見せたジウの"迫力"には些か欠けるが、それでもサクの腕は最強の名を継ぐに相応しい。その上でサクは周囲から愛され、そして女達が騒ぐほどの美丈夫だ。難点は馬鹿なことくらいだが、それを帳消しにできるほどの直感力と力がある。


 もしも、ジウ系列の顔が、代々玄武の祠官に仕える玄武の武神将で。

 "姫様の武神将になりたい"とか、"姫様を嫁にしたい"とかいう言葉を向けられただけではなく、自分の体のあんなところこんなところを、触られたり舐められたり、それ以上のことをされたら。

 たとえそれが命かかった治療だとしても、自分は納得できて、今のサクに対してのように心安らかに身を任せられただろうか。


 ………。

 駄目だ、どうしてもそんな状況は想像出来ない。

 今のサク以外のサクを想像出来ないからだ。ジウの顔になった途端、明らかな"他人"に対する警戒心が芽生え、サク同様の心が持てない。


 自分が想像出来るのは、きっとジウの父親もジウとそっくりな顔で、その父親も……と延々と前に遡っても、ジウの顔が出てくるだろうことで。

 
 切っても切っても同じ絵柄が出てくる、揺籃名物の長い飴みたいだ。


「ぷぷぷ……」


 駄目だ、笑いが押し止められない――。




「ぷぷ……えっ!?」



 ……それは、一瞬だった。



 ギルが動いたと思った瞬間、サクが赤い柄の剣を手にして、子供達の頭上でギルから振り下ろされる大きな刀剣を受けていたのだ。
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