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吼える月
第20章 対面
互いに全力で押し合っているのか、ギギギと刃物が擦れ合う耳障りな音が響く。
ユウナはあまりにも不躾に笑いすぎたために、怒り心頭のギルが自分達を殺そうとしたのだと思い、軽率な行動をしたことに青ざめた。
ジウを知ればこそ、気安さが前面に出てしまったが、考えてみれば、ギルはジウに背いているのだ。
快く思う要素など微塵もない。
火に油をそそいでしまった事態の収拾には、ごめんなさいと素直に謝罪して、怒りを静めて刀を置いて欲しいと懇願すればいいのか。
ただあたふたと慌てふためくユウナの前で、ギルと刀を交差したままでサクが揶揄するように言った。
「――で、評価は如何なるものですかね、この"手合わせ"の」
漆黒の瞳でギルを見据えながらも、サクは超然と笑っていた。
「て、手合わせ?」
ユウナはひっくり返った声を出して、数回目を瞬かせた。
手合わせとは、つまり、互いに本気ではない……ということだろうか?
見ているだけで誰もが恐怖に卒倒しそうなほど、ギルは、鬼気迫る恐顔で凄んでいるというのに。
周囲は、突如訪れた……歓迎要素などまったくない殺伐とした展開に、引き攣った息をするしかできないというのに。
「ええ、そうですよ、姫様。武人は、口よりも剣の方が多く語りますんで」
「でもサクは、口も多く語る……」
思わずぽろりと。
「うるせぇです、姫様」
「うるさいのはてめぇだ、俺と剣を交えているのなら黙りやがれ!!」
殺気めいた野生の猛獣が、咆哮するようにサクを一喝する。
「……ぷ。駄目だ、そっくり……」
と、余裕で受け流しているのは、サクともうひとり。
不穏な場でただ腕を組み、俯き加減で口元で笑う男がいる。
……シバだ。
ギルが仕掛けたにせよ、サクの実力を見知る彼が手出しをしないで傍観しているところに、きっとギルの"真意"に通じるものがあるのだろうとユウナは思った。
そしてきっとそれは、サクの想定内のもので――。
つまり、サクの腕を見たいのだ。