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吼える月
第20章 対面
「……お前、何者だ?」
突如力を緩めたギルから出たのは、感嘆でも失望でもなく。
猜疑心を溢れさせた、疑問系のもの。
「ただの武人じゃないな。ただの武人にしては、修羅場慣れしすぎている」
小さな目をさらに細め、研ぎ澄まされた刃のような剣呑さを強めた瞬間。
「え、猿!?」
サクがイルヒの手より小亀……基、白イタチを取り上げ、ギルの頭に乗せたのだ。
同時にその場ですくりと片膝をついて、片手拳を押さえるような武官のポーズを取ると、ちらりとユウナを見た。
ユウナにはわかった。
"姫様、素性を明かします。よろしいですか?"
サクがその必要があると判断したのなら、拒むつもりはない。どこまで効力を持つのかわからぬ肩書きだけれど。
小さく了承の意で頷くと、サクは会釈してギルに言った。
「俺の名前はサク=シェンウ、父ハン=シェンウより代わった玄武の武神将だ。そしてあちらが黒陵国玄武の祠官のご息女、ユウナ姫である」
凜としたその声に、場がざわりとざわめく。
ユウナもまた、祠官の娘らしく、腰を落として下衣の両裾を摘まみ、優雅な仕草で頭を垂れた。
「ふへぇ……お嬢が、本当のお嬢……。だったら、小亀ちゃん……玄武っていう神獣!? テオン、知ってた!?」
「し、知らない……。どうしよう僕……、知らないでお姉さんに色々……」
「おい、武神将って、ジウと同じ悪い奴か?」
「いや、ユウナと一緒にいるから悪い奴ではないと思うけど」
「だよな、ユウナが悪い奴だったら、僕達助けてくれないよな」
「だけど玄武の武神将って、馬鹿なのか? それとも馬鹿なふり?」
「シバに随分怒られてたよな。シバはそれより強いの? あ、だけどひらひら避けてたし。ただの猿じゃないんだ」
「猿の武神将だ」
子供達のひそひそ声には、ユウナを称賛する響きはあるにせよ、サクの賛辞はあまりなく。
ハンならば名前だけで誰もが萎縮するというのに、自分では子供すらその効果がなく、猿止まり。"ああやっぱり。凄いひとだったんだ"という声を僅かに期待していたサクが、ひと知れず舌打ちする様子を、誰も気づいてはいなかった。