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吼える月
第20章 対面
ユウナの頭は混乱する。
自分は婚姻前夜、夫になるはずだったリュカから、サクと命からがら逃げてここにいる。
だがギルが告げたのは、黒陵の姫とリュカが婚姻を上げたという、信じがたい既成事実。しかもそれが数時間前――。
たとえリュカの相手が自分の偽りであろうと、自国のみならず他国にも、自分相手に婚姻を続行したということが、真実として知れ渡っている現実を突きつけられ、ユウナは動揺に浅い息を繰り返す。
知らぬ間に、リュカの妻として勝手に使用されていた自分は、気づけばいつしか唯一真たる"ユウナ"の存在すら貶められ、凌辱の…裏切りの夜すらないものにされた。それだけではない、自分の存在は"無い者"とされたのだ。
込み上げるのは、屈辱なのか、悲憤なのか。
ここに居る"あたし"は誰?
"黒陵の姫"とは誰?
世界のすべてが白く染まって行くような……、
「姫様、大丈夫ですか!?」
そんなユウナをしっかりと両腕で支えたのは、サクだった。
「姫様、俺がわかりますか?」
サクがいるから、なんとか自分を保持出来る――。
「だ、大丈夫。ね、ねぇそれより、あたし耳がおかしくなったのかしら。それとも考える力がなくなったのかしら。あたし、リュカが黒陵の姫と婚姻を上げて、この国に来ると聞こえたんだけど……」
それに答えたのは、ギルだった。
「その通り。つまり、黒陵の姫は他にいる。お前、その名を騙る偽者だ」
断定的な声に、ユウナの顔が強張った。
「あたしが……偽者……?」
「わかっているだろうが、倭陵においてはどの国にも、国を統治する祠官やその家族、武神将の名を騙る者は重罪人となる。お前達は、黒陵のお偉いさんどころか、咎人ということだ!!」
勝ち誇ったようなギルの声が、ユウナの中で朦朧と反響していた。
「この偽者!! 本物を騙って蒼陵でなにをする気だ!?」