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吼える月
第20章 対面
偽者――。
ユウナの脳裏に、さまざまな思い出が駆け巡る。
姫として、退屈以外になに不自由ない生活を送っていた過去。
大事な人達に囲まれ、いつも笑顔で。
そして婚姻を明日に控えた夜、かけがえのない人に裏切られ、凌辱され。
サクの人生を犠牲にして、ここまで生き抜いてきた。
体を穢されても、自分でいられたのは、ひとえにサクの存在と、サクが昔から支え続けてくれた姫という肩書きで。
いずれは、なくなる儚い権威だとは思っていた。
他国にくれば、さらに効力がないこともわかっていたつもりだった。
だが――。
"偽者"。
幸せだった今までの思い出すべてを、否定されることになるとは思っていなかった。なかったことにされようとは……。
ユウナから、ほろりと涙が零れ落ちた。
「姫様……」
「大丈夫」
その涙を拭おうと手を伸ばしたサクを、ユウナは笑って制する。
サクの腕に掴む手は、カタカタと小刻みに震撼していた。
「大丈夫、大丈夫よ。サク。ちょっと混乱しているだけなの。別に傷ついてなんていない、これくらいあたしは平気だから」
多分、サクはわかっている。ユウナはそう感じた。
今自分がショックを受けているのは、姫として生きてきた人生を否定されたことだけではなく、真実を告げようとすれば重罪人となる立場になったことだけではなく。
ユウナはどこかで信じていたのだ。
リュカはどこかで罪悪感を感じているために、自分以外の女と婚姻をしようとはしないと。