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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
「……あまり、驚きがないな、サク。もしかして、疑っていたのか? ハンと共に……」
訝しげなリュカの声に刺激され、サクの脳裏に父の言葉が思い出される。
早々からリュカの動向を気にしていた父。
敵は内にいるかもしれないと言い残し、まだ戻らぬ父。
「お前か。親父をこの屋敷から遠ざけたのは。今夜だけじゃねぇ。祠官の奥方が亡くなった後あたりから」
「ご名答。最強の武神将は厄介だからね」
悪びた様子もなく、淡々と喋る。
サクはぶるぶると体を震わせながら、一度天井を仰ぎ見て、そしてリュカを見据えた。
「リュカ。なんでこんなことをしでかした」
「無論、正義という名を都合よく掲げる偽善者への粛正に」
「なぜそれが、祠官を始めとした玄武殿の者達なんだ? 今夜の予言成就を阻むために、"輝ける者"の排除を指示したのは皇主だぞ?」
「だからじゃないか。玄武が堕ちれば……連携を崩された倭陵の結界は弱まる。天高く座す皇主が……足下に転がってくる」
くつくつ、くつくつ。
リュカが喉もとで笑う。
依然、無表情な顔をさらして。
「リュカ。これは……お前が本当に望んでいたことなのか? 姫様の愛する者達を殺して、姫様の泣き顔を見て泣き声を聞いて。それでもしなければならないことだったのか!? それで幸せなのか、お前」
「勿論」
リュカの冷えた双眸が、ユウナに向けられる。
「"愛される"ことに慣れた偽善の姫の顔が、苦痛に歪む瞬間こそが……僕が幸せだと思える瞬間だ。だけど僕が受けた屈辱は、そんなものだけで晴れるものではない」
憎しみすら込められたその瞳に震えるユウナを、サクは体全体で護るように、強く片腕で抱く。
「声を上げれば誰か駆けつけて、自分が大事なものは誰かが守ってくれる。自分はなにも苦労せずとも、安穏たる幸福は保障される。
はっ、反吐が出るねっ!!」