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吼える月
第20章 対面
 
 だが、現実は1ヶ月も経たぬ短い間に、自分の代わりとなる女を見つけて、婚姻してしまった。

 リュカと婚姻しようとしていた、真実のユウナではないとわかっていながら。


 そんな程度だったのか。

 やはり、「黒陵の姫」としてしか自分に価値はなかったのか。

 ……リュカには、自分への愛が完全になかったのだ……。

 

 自分から、姫という肩書きを無くせばなにが残る?


 それをこの逃亡中に思い知ってきたではないか。


 姫という、自力で勝ち取ったわけではない肩書きをなくせば、自分は無価値だと――。


 そうだ。

 思い知っているじゃないか。


 なにをいまさら悲嘆することがある?

 自分には、サクがいるんだ。


 自分には真実、祠官であった父の血が流れ続けている――その事実を、サクだけはわかってくれる。

 武神将のサクだけは。


 だとしたら、サクに恥じぬように、強くいよう。

 泣くだけの日々は、もう沢山だ。


 サクに相応しい、父のような上に立つ人に少しでも近づけるために。 


 ユウナは袖で涙を拭うと、ひとつ深呼吸をして、そして無理矢理に笑った顔をサクに見せた。サクの方が、泣きそうな凄惨な顔をしていた。


「もう泣かない。こんなことで負けてたまるものですか。どんな女が取って代わったのかはわからないけれど、あたしはただ、姫の立場を利用してリュカに交渉する切り札を失ってしまったのが痛いだけ。そう……それだけよ」


 それは完全なる虚勢。

 しかしリュカを振り切ると決めたからには、心をこんなところに置いてうじうじとはしていられないのだ。


 乗り越えて見せる――。

 真実は、いつだって虚偽に負けることはない。


 弱い立場になったあたしは今、やらないといけないことがある。

 さあ、行くんだ。弱さは、必ずしも不利にはならないことを信じて。


 ユウナはそれまでの、ギルの迫力に一喜一憂していた少女らしい態度を一変し、毅然とした表情でギルを見た。


 ちりと空気の質が代わり、張り詰めたような鋭気がユウナから発せられ、誰もが息を飲んでユウナを見つめた。

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