この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第20章 対面
「ギル。貴方が耳で聞いただけの現実のほんの断片を、貴方がすべての真実と受け止めようとも、これだけは覚えていて。どんな欺瞞も、真実の力には敵わない。鎮護している神獣が許さない。
あたしには、黒陵の慈愛深い神獣玄武の加護がある。だからサクと共に、生かされてきた」
その凜とした声は他者を平伏せるだけの威力を伴い、ギルですら押し黙ってユウナを見ていた。
「郷に入らば郷に従え、それは十分わかっているつもり。だからあたしは、隣国事情を貴方に話して、真実は違うのだと訴えるつもりはない。
あたしがこの国に来たのは、この国の民を混乱させるつもりもなければ、同情が欲しいわけではない。そう、貴方が聞いたのは、黒陵のただの身内の事情。それだけのことよ。大したことはない」
「身内の事情……ねぇ。それで俺を丸め込めるとでも思っているのか、ユウナとやら。そういう言い方でくるということは、その身内とやらが挨拶に来た時に、てめぇらを売ったら幾らふんだくれるのか、俺が考えているということはわかっているようだな」
ギルが酷薄めいた薄い笑いを浮かべる。
サクの目に殺気が走ったのを見て、ユウナはサクの手を引いた。
「俺をどう止めるか、自称姫さんよ? 俺にとってはお前やそこの猿がどうなろうとも痛くも痒くもねぇ、なにせ隣国事情だ。俺としては、損得だけがすべて」
「そうね。子供達を救い、養わねばならないものね。子供達はまだまだいるんでしょうし、貴方は蒼陵の"弱者"を見過ごせない。それに……」
ユウナは落ち着き払って、シバを見た。
シバは無言でただユウナを見ているだけだった。
「シバは俺の舎弟だ。シバは俺の命令なくば、情では動かねぇ。どうするんだ? その体差し出すか? 弱い女ですから、庇護して下さいと」
舌舐めずりをするギル。憤って飛び出そうとするサクの手を、さらにユウナは強く引いて押し止めさせた。