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吼える月
第20章 対面
 
「ギル。貴方が耳で聞いただけの現実のほんの断片を、貴方がすべての真実と受け止めようとも、これだけは覚えていて。どんな欺瞞も、真実の力には敵わない。鎮護している神獣が許さない。

あたしには、黒陵の慈愛深い神獣玄武の加護がある。だからサクと共に、生かされてきた」


 その凜とした声は他者を平伏せるだけの威力を伴い、ギルですら押し黙ってユウナを見ていた。


「郷に入らば郷に従え、それは十分わかっているつもり。だからあたしは、隣国事情を貴方に話して、真実は違うのだと訴えるつもりはない。

あたしがこの国に来たのは、この国の民を混乱させるつもりもなければ、同情が欲しいわけではない。そう、貴方が聞いたのは、黒陵のただの身内の事情。それだけのことよ。大したことはない」


「身内の事情……ねぇ。それで俺を丸め込めるとでも思っているのか、ユウナとやら。そういう言い方でくるということは、その身内とやらが挨拶に来た時に、てめぇらを売ったら幾らふんだくれるのか、俺が考えているということはわかっているようだな」


 ギルが酷薄めいた薄い笑いを浮かべる。

 サクの目に殺気が走ったのを見て、ユウナはサクの手を引いた。


「俺をどう止めるか、自称姫さんよ? 俺にとってはお前やそこの猿がどうなろうとも痛くも痒くもねぇ、なにせ隣国事情だ。俺としては、損得だけがすべて」

「そうね。子供達を救い、養わねばならないものね。子供達はまだまだいるんでしょうし、貴方は蒼陵の"弱者"を見過ごせない。それに……」


 ユウナは落ち着き払って、シバを見た。

 シバは無言でただユウナを見ているだけだった。


「シバは俺の舎弟だ。シバは俺の命令なくば、情では動かねぇ。どうするんだ? その体差し出すか? 弱い女ですから、庇護して下さいと」


 舌舐めずりをするギル。憤って飛び出そうとするサクの手を、さらにユウナは強く引いて押し止めさせた。

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