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吼える月
第20章 対面
 

 慣れるものではない。

 魔に変貌した自分を見られるのは。


 だから、隠そうとしないシバは凄いとユウナは思った。

 そのシバを、そのままの姿でいさせるギルは凄いと思った。子供も禁忌の存在も、守り通そうとするその心意気は素晴らしいと思った。

 たとえそのために、どんな横暴なことを繰り返そうとも。


 だから――。


 隠さねばならぬ身の辛さを知る彼らなら、耳ではなく目から信じて貰いたかった。馴れ合いたいわけではない。

 なにが真実なのか、わかって貰いたかった。

 真実とは単純なものではなく、複雑なものもあるのだと。

 
 その為には、自分もまた隠した"もの"を取り払わねばならない。

 "黒陵の姫"が別の女になったのなら、黒髪で隠す必要もないだろう。シバのように、堂々と生きてみたいとも思ったのだ。

 たとえ、魔にまで落ちぶれた女と言われても――。
 

「姫様」


 沈黙を破ったのは、またもやサクだった。

 握りしめられた拳が震えていた。


「姫様、俺もう無理です。ここから先、俺がやります」

「サク!!」


 しかしサクはユウナの言うことを聞かず、ユウナを背で庇うようにして、ギルとシバに向けて片膝をついて言った。


 強張ったその顔に宿るのは、怒り。

 それを押し殺して、サクは言う。


「身内事情により、"ワケ"あって黒陵から蒼陵に参りましたユウナと、従者サクです。まだ不慣れな"光輝く者"ですが、この国にて生きる術をご教授願いたく。蒼陵国現青龍の武神将の嫡男」


 そしてサクは顔をあげて、冷ややかな眼差しを向けた。


「――シバ殿」


 青く輝く美貌を持つ男に。


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