この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
「――っ」
ユウナは嗚咽を漏らして、サクに強く抱きついた。
そんな風に思われているとは思わなかった。
ユウナの中で、リュカとの思い出が音をたてて崩れていく。
リュカの笑顔が、自分の笑顔が、サクの笑顔が……三人で笑いあったあの日々は、あまりにも脆すぎる砂上の楼閣だった。
積み上げた年月は長くて……崩れ去るのは一瞬で。
永遠を信じ合えたあの輝かしい過去が――。
――ああ。やったな、僕達!
――すげぇな、姫様とリュカがいれば、無敵だっ!
――ええ。無敵よ、あたし達は!!
崩れ去っていく――。
終焉の先に見えるのはなんだろう。
憎悪、怨恨。
どこまでも果てなき闇ばかり。
ユウナの脳裏に、父の骸の残像が蘇る。
父を殺したのは……。ここまでのリュカの心の闇に気づかずに、さらに追いつめていた自分ではないか。
言っていないのに……。
大好きだと、父に伝えていなかったのに。
もうそれは……永遠に届けることはできない。
「ひっく……ひくっ……。お、父様……お父様――っ!!」
父への慕情が爆発する。
リュカに拒まれ憎悪をぶつけられ、さらに父への愛情は、自らの自責の念と相乗して、ユウナの小さな体を壊すかのように突き上げる。
悲鳴と呼吸がすれ違う。
現実と生の実感が伴わない。
「あ、あぅ……ぐっ……ううっ……」
「姫様、姫様っ!? ……ちっ、過呼吸か。姫様、失礼します」
サクは、過呼吸になりかけたユウナの頬を叩いて呼吸を戻す。
端正な顔が、やりきれない思いで翳った。
「こんな姫様を見て満足かよ、リュカ」
「……ああ、愉快だね」
口調は軽快だが、表情は変わらない。
その心を簡単には見せない。
厳重な鍵で護られているようなリュカの心。
それはいつもの微笑みの仮面などより、はるかに硬質で。
リュカが別人のように、遠すぎた。