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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
  
「――っ」


 ユウナは嗚咽を漏らして、サクに強く抱きついた。


 そんな風に思われているとは思わなかった。

 ユウナの中で、リュカとの思い出が音をたてて崩れていく。


 リュカの笑顔が、自分の笑顔が、サクの笑顔が……三人で笑いあったあの日々は、あまりにも脆すぎる砂上の楼閣だった。


 積み上げた年月は長くて……崩れ去るのは一瞬で。



 永遠を信じ合えたあの輝かしい過去が――。



――ああ。やったな、僕達!

――すげぇな、姫様とリュカがいれば、無敵だっ!

――ええ。無敵よ、あたし達は!!

 

 崩れ去っていく――。


 終焉の先に見えるのはなんだろう。


 憎悪、怨恨。

 どこまでも果てなき闇ばかり。


 ユウナの脳裏に、父の骸の残像が蘇る。


 父を殺したのは……。ここまでのリュカの心の闇に気づかずに、さらに追いつめていた自分ではないか。


 言っていないのに……。

 大好きだと、父に伝えていなかったのに。


 もうそれは……永遠に届けることはできない。



「ひっく……ひくっ……。お、父様……お父様――っ!!」


 父への慕情が爆発する。

 リュカに拒まれ憎悪をぶつけられ、さらに父への愛情は、自らの自責の念と相乗して、ユウナの小さな体を壊すかのように突き上げる。


 悲鳴と呼吸がすれ違う。

 現実と生の実感が伴わない。


「あ、あぅ……ぐっ……ううっ……」

「姫様、姫様っ!? ……ちっ、過呼吸か。姫様、失礼します」


 サクは、過呼吸になりかけたユウナの頬を叩いて呼吸を戻す。


 端正な顔が、やりきれない思いで翳った。
 

「こんな姫様を見て満足かよ、リュカ」

「……ああ、愉快だね」


 口調は軽快だが、表情は変わらない。

 その心を簡単には見せない。


 厳重な鍵で護られているようなリュカの心。

 それはいつもの微笑みの仮面などより、はるかに硬質で。


 リュカが別人のように、遠すぎた。
 
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