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吼える月
第20章 対面
武神将であることの証明――。
サクは、記憶にあるハンの姿を思い出す。
ハンは、その存在で真の武神将であることを人に信じさせた。
「玄武の力とやらを出して、俺達を屈服させてみせるか、武神将もどき」
旅立ちに父から贈られた、『武神将の心得』たる手紙を思い出す。
絶対的に守らねばならぬこと。
それは――。
「いいや、それだけはやらねぇ」
"圧倒的な神獣の力を、自らの存在誇示のために披露してはいけない"。
「力を見せるのは、民を救う時だけだ。私情では使わねぇ」
そして――。
「だったら、なにで証明する気だ?慣習に逆らい、現玄武の祠官に仕えぬ武神将もどき」
"武神将は、主たる祠官によって存在を許されること、覚えておけ"
そう、ハンが武神将であることを人に信じさせたのは、必ず祠官をたて、その傍に控えていたからだ。
祠官に横に立つことを許された……だから、自分が唯一の武神将なのだと、ハンはその力を見せずして人に示した。ハンが力を見せる時は、武闘大会か、祠官命令によって"征討"目的があった時だけ。
ならば、サクがとるべき道はひとつだけだ。
サクは、ユウナの元に趣き、跪(ひざまず)く。
銀髪の、自らの生涯をかけたいと思う、唯一の主に、
「サ、サク!?」
サクは頭を深く垂れた。
「……どういう意味だ?」
サクは頭を垂らしたまま、言った。
「慣習など知ったことか。代々続いた玄武の祠官亡き今、俺が仕えるべき主は正統な直系であるユウナ姫だけ。絶対服従するのは姫様だけだ」
そして上げた顔には、誓いのような真剣さに覆われていた。
「俺の武神将としての存在は、俺が選び、俺を必要としてくれる姫様の存在こそが証明してくれる。
姫様が生きて俺の傍にいる――ただそれだけが、武神将たる俺の存在証明」