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吼える月
第20章 対面
「なにが武神将か。誰が武神将か。本当に、わからぬというのか」
ぎんっ。
一段とユウナの目力が強くなる。
「その目でわからぬのなら、その心を見よ。その心が真、サクを武神将として捉えぬというのなら、その心をまず洗ってから、我らの元に現れよっ!!」
ユウナの凜烈とした怒声で場が静まり返り、妙な緊張感があたりを包む。
誰も言葉を差し挟めぬその状況は、間違いなくユウナが作り出したものだった。
ユウナだけが真実の裁断者である――たとえ真実がどうであれ、ユウナの言葉はそう思わせるだけの重みがあり、誰もが引き摺られてそれを是と追従するしかない。
……その迫力が、サクの心を奮わせていることに、気づく者もおらず。
「ふふ……」
やがて――。
「ふふふふふ。……諦めろ、ギル」
場にそぐわぬ笑い声を発して、終焉を宣言したのはシバだった。
「ギル、お前の負けだ」
無表情の仮面を被り続けていたシバの顔には、はっきりとした情が浮かんでいた。それは"愉快"――。
「力で武神将の強さを見せようものなら、攻撃材料にして有利な立場に持ち込もうと目論んでいたんだろうが、どうもこいつは違うらしい。こいつをいたぶればいたぶるほどに、この女が力を持ち、この女をいたぶれば、この男が力を持つ。悪循環、時間の無駄だ」
……穏やか口調ながらも饒舌だった。寡黙だったあのシバが。
まるで今までは観察をしていたといわんばかりに。
「だがよ、シバ」
「完全に飲み込まれた奴がなにをほざく。あの女が銀髪になった時点で、お前もまた、納得したんだろうが。変貌にはどんな理由があったにせよ、目の前に居るのは、黒髪の美姫と名高い黒陵の姫と、武闘大会で名を馳せていた、"サク=シェンウ"……姫の護衛役にて、最強と名高い……玄武の武神将の息子に間違いないと。姫の言葉ではないが、それこそ目ではなく心で。
武神将が代替わりしていたことを知らずにいたのは、オレらの情報不足。親の七光りとあたるんじゃない。こいつは俺達が忌む、"武神将"の類いではなさそうだ」
「う……」
言葉を詰まったように頭を掻くギル。
ユウナはシバ上位にて急激に軟化した場についていけず、サクの頭を抱えたまま、ぱちくりと瞬きを繰り返していた。