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吼える月
第20章 対面
 
「シバが"お節介"というのなら、一応、ギルは銀髪の姫様を見て、"偽者とされても悲嘆するな、道はある"とでも励ましてくれたようですよ、姫様。すっげぇ、遠回りすぎてと~ってもわかりにくいですが。俺もシバが言うまで、この悪意の塊から発せられるものにちょっぴりの善意があるということすら、まるで全然ち~ぃっとも、思い至りませんでしたが」

「ええええ!? は、励まし、どこが!?」


 ユウナの顔からは、ギルやシバを辟易させたあの威圧感は失せ、変わって面白いほどにくるくると表情を変えて見せた。


 そんなユウナに飲まれたことを快く思っていないらしいギルは、ぶすっとしており、不機嫌そうな小さな目は、素直に"お節介"を理解できないふたりを詰っているように、なにか言いたげだ。


「シバには、俺が海で玄武の力を使ったことはわかられていたんでしょう。共鳴をどの程度信用していたのかは知りませんが、少なくとも神獣の力に関係する者だとわかられていた。船から連絡でもいったのか、ここに来た時点、俺達の素性は"可能性"としてわかられており、この場でその可能性の真偽判定を兼ねて恐らくは試されたのでしょう。

試されていたのは、最強の武神将の息子としての俺の剣の腕だけではなかったようです。姫様も、そして武神将と名乗った、新たにご大層な肩書きを持った俺の器もまた。この連中に武神将というのは、禁句だったのかもしれません。

さ、姫様。立ち上がれますか? 体は濡れてないようですが、俺の上着羽織ります?」

「い、いらないわ。な、なんで? 試されたって……」

「交渉の相手たる器かどうか。言い換えれば、あいつらの企み事に荷担させられようとしていたわけですよ。で、姫様の気風のおかげで、めでたくその資格を得たようで。

多分これから、俺達をリュカから匿う条件との引き替えに、ややこしくて厄介な話を聞かされる羽目になる予感がひしひしです。

嫌ですよねぇ、好んで選んだ血ではねぇのに、その血に眠る神獣の力が、別の神獣を眠らせるシバに共鳴してるからか、皆から馬鹿だと言われる俺の勘がこうまで冴え渡るのも。色々気づかない方がよかったかもしれません。はい、姫様。手を」


 サクの介助で立ち上がったユウナが、ちらりとギルとシバを見れば、忌々しそうな表情をしている。

 サクが感じている予感は気のせいではなさそうだ。
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