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吼える月
第20章 対面
「……母親は?」
ジウが"光輝く者"ではないのだとすれば、シバに美貌と輝きを与えているのは、必然と母親と言うことになる。
武闘大会に連れてくる子供を対外的にも後継として披露しているのなら、シバの母親が正妻である可能性は低いだろう。
まあ、あのジウに妾を持つという甲斐性があったのが、それはそれで驚きなのではあるが、さらにはそれがよりによって、禁忌たる"光輝く者"だという事実に驚嘆してしまう。
「死んだ。"遮煌"で。それまで嫌がる母親を散々もてあそび気を狂わせて、挙げ句の果てに、大義名分掲げて簡単に殺した。俺の目の前で」
憎々しげな口調――。
「……っ」
ユウナがサクの服の裾を掴んで、顔を俯かせたのがわかった。
思い描くジウ像がなんであれ、シバの憎しみが真であるのなら――。
彼女もまた、肉親を目の前で殺された凄惨な過去を持つゆえに、シバの心の痛みを強く感じているのだろうと、サクは思った。
遠隔的に両親の存在が消えて行くのを悟ったサクですら、今でも心苦しくて、わめき出しそうになるのだ。
それが目の前で繰り広げられたものであれば、どれほど自分の無力さを嘆き悔いることだろう――。
「遮煌か……」
圧倒的強さを持つ武神将が正義の指揮をとり、力なき"異端者"に神獣の力を振るった、闇に隠された倭陵の歴史。
弱い民を守るために存在する武神将は、倭陵を滅ぼす"かもしれない"可能性だけで、守るべき弱い民よりも弱く、ひっそりと暮らしていた者達を虐げる命令を遂行した。
それによって、黒陵ではリュカに闇が生まれた。
それによってユウナが苦しみ、ユウナが愛する多くが死んだ。
蒼陵ではシバが、憎しみを抱き続けている。
多くの"大切な者"を犠牲にしても、結局凶々しい予言は遂行され、現在倭陵を包んでいるのは、平和的空気ではない。
遮煌の効果があったとは到底思えない。
むしろなかった方が、今に引き摺る禍根は僅かですんだかもしれない。