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吼える月
第20章 対面
「ギルはお前のなんだ?」
「ギルはあの男の末弟の息子。俺の従兄にあたる。ギルだけは昔から味方だった。あいつから匿ってくれたのも、ギルだ」
武神将の姓は、直系だけに踏襲させるのか、一族にも踏襲させるのかは、その国の武神将判断によるものだと聞いたことはある。
ギルがチンロン姓を名乗るのは、一応はジウと連なる血はあり、その姿態や武術はジウに酷似しても、恐らく神獣の力を感知する特殊能力はほとんどないのだろう。
サクは、ギルから同胞の共鳴を感じない。
ギルは、憐憫の情からシバを庇護してきたのだろうか。
ギルはジウをどう思っているのだろう…。
だがギルは、自らの回答を避けるように、顔を横に背けてしまった。
ジウのことは語りたくない、と全身で訴えているようだ。
代ってシバが饒舌に交渉に入る。
「リュカとやらが来たら、俺達が匿ってやる。だから――」
サクは静かに手を伸ばし、掌をシバに見せるようにして、会話を遮った。
「遮煌後、ジウ殿はずっと非道三昧を繰り返していたわけではねぇだろ。子供達の話では、青龍殿が今の場所に移される際に、刈り出されたと。だったら開始はいつからだ?」
「あ、ああ? そうだな、あの男が焦ったように大人を刈り始めたのは、今から一年前あたりか」
一年前、と反芻しながらサクの目が細められた。
一年前とは、ユウナとリュカの婚姻が決まり、サクが荒れていた時だ。
「なぜ、青龍殿が元々の場所から今の場所に移された?」
「知るか」
「じゃあ、数年前までは蒼陵はまだ大地があったよな。いつからこんな海だけの国なったんだ?」
「それこそ、青龍殿が移動された後か。蒼陵で凄い地震が来て、今までにない地盤沈下が起きた。一気に海水があがったんだ。それによって渦が青龍殿にとりまくようになり、蒼陵内で断絶した」
「で、民の多くは青龍殿を必要としない浮島の国となったわけか。その時の指揮をとったのは?」
「祠官やあの男だ。力で地殻変動を感じ取っていたのか、事前に貴重価値が高い浮石での実験的な生活を強いていたから、民は犠牲者を最小限にして、浮石にて沈没の被害から逃れられた」