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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
「そこまで、お前を虐げたこの国が憎かったのか?」
「ああ」
「13年前。お前を助けた俺も姫様も俺の親父も、憎かったのか!?」
荒げられたサクの声に、僅かリュカの口もとが弧を描く。
「勿論。それともなに? この期に及んで、まだ本当に友情や愛情や敬愛の念があったと信じているとでも? 確かに、僕自身ですら本当のように"錯覚"するほどの、13年来の演技の出来ではあったけどね」
リュカの唇以外、その表情は彼の本心を伝えない。
興奮したように上擦った声であっても、その顔は蝋でも塗られているかのように無表情だった。
それを見ながら、13年分の思い出を否定されたサクの心が痛んだ。
サクの服をひっしと掴んでむせび泣く、ユウナも同じく。
「俺達を……殺すつもりか。祠官のように」
サクはリュカを睨み付けて、かちゃりと偃月刀を握りしめた。
それを見たリュカの目に、僅かになにかの光が横切った。
「………。本当に……この世は残酷すぎて、なにひとつ僕の思い通りには動かない」
ぽつりと無気力気味に呟かれたその言葉は、まるで独り言のように。
「……頼みも煽りもどんな約束も、僕の願いそのものはすべて、泡沫に消える。この世のすべては残酷で不条理で……どんなに抵抗しても結局は……強いものには敵わない」
言葉を切ったリュカにサクが訝しげに目を細めた瞬間、サクに相対するように、リュカも手にある小剣を構える。
「だけど僕は諦めない。僕の願いを叶えるために、お前達を消す」
そこにはただ、冷酷なまでに冷たい面差ししかなかった。
「やめて、やめてぇぇぇぇぇっ!! これ以上、殺し合わないで。やめてぇぇぇぇぇぇっ!!」
ユウナの悲痛の叫びが部屋に響く。