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吼える月
第21章 信愛
 


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 倭陵を滅亡へと誘うとされる光輝く異端者。


 その動きを止められなかった黒陵国では、姫との婚姻によって智将が新祠官となった。


 切り取られた予言の夜になにが起きていたのか知らぬ人々は、裏切りの首謀者の演じる、一度は取りやめになった平和の儀式にてなにを思うのか。


 真なる祠官と武神将、そして姫や忠臣無き空虚な国において、智将と呼ばれた成り上がりの新祠官が企んでいるものは一体何なのか。

 餓鬼が蝕む国の頂点にたったとて、誰にその権勢を見せたいのか。

 そこには神獣の加護はあるのか――。


 かつての友たる新祠官の動きを、隣国にて人伝で聞いた玄武の武神将は、新祠官の気質からして、わざわざ自分が居る隣国に偽者との婚姻を見せつけに来るという点が釈然とせず。


 そこから思ったのは、蒼陵における"布石"効果を視察しにきたのではないかということだった。


 新祠官の企みは、黒陵における私怨に留まらぬのではないか……それは玄武の武神将の父も懸念していたこと。その視点で立てば、青龍の武神将の変貌は意味があるのではないか。


 これは玄武の新祠官が本格的に動き出す、前触れかもしれぬ――。


 玄武の武神将は、新祠官が来る前に、まずは狂行に走るという伝聞の事実しかない青龍の武神将に、直接会う必要性を感じ、青龍殿への道のりを尋ねた。


 だが、その隠し子であり、玄武の新祠官と同じ光輝ける青き異端者は、武神将同士の結託を怖れるゆえに、その訪問を是としなかった。


 やがて、その従兄とこう言った。



 もしどうしても行きたくば。

 青龍殿への行き方を教える代わりに、姫をここに残せ、と――。




 ~倭陵国史~



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