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吼える月
第21章 信愛
そんな状況である上に、リュカの登場。
わざわざ、"逃がした"蒼陵国に、偽の婚姻を見せつけにくる……リュカはそこまで悪趣味でも自虐的ではない。なにより智将と名高く、ハンですら警戒していたほどの男だ、無意味なことはしないだろう。
だとしたら意味がある。
ジウが狂行に及び年寄と子供しかない蒼陵国に来る意味が。
自分達がジウを頼るだろうことを見越して、牽制にくるのか。
或いは――。
予言の夜に向けて、黒陵での謀反が失敗に終わった時の代替案として、なにか蒼陵に"布石"が投じられていたとしたら?
それはハンも心配していたことだった。
そして現実、この国には予言の夜前から、青龍の加護がない。
黒陵がどうなっていようと、元々、祠官同士が結界を張り合うという技は、破綻していたのだ。
もしそれがリュカの画策だったらと、ジウと接点がないふたりの交差時期を照合して考えて見れば、一年前の春に疑惑が上がり、それから蒼陵はジウと共に変貌していく。
リュカがなにかをしたのか。
今回の来訪は、撒いた種の育ち具合を見に来るのではないか。
そう思えばこそ、リュカが来る前に、ジウとの変貌にリュカが関わっているのか否かをはっきりさせたかった。
……リュカが蒼陵の民までを苦しませていない証拠を見つけたい、それが本音だと、サクはユウナに吐露した。
簡素な寝台に腰掛けたサクは、両膝の上に力なく手を置き、項垂れてぼそぼそと呟く。
「黒陵であれだけのことをして、そしてさらにとんでもねぇことをして祠官になって、それを他国に見せつけて。わかってるんですよ、あいつはひでぇことをした奴なんだって。でも……」
サクは、目の前に心配そうにして見つめて立つユウナを、気怠げに見上げ、辛そうにぎゅっと目を細めた。
「それでも、俺はあいつを……倭陵全土を滅ぼす、予言の元凶者にまではしたくねぇんです。姫様には悪いんですが、黒陵での"道化師"くらいで留めてやりてぇ」
「サク……」