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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
「願いとはなんだ?」
「死に行く者には、知る必要がない」
「リュカ。お前……本気か?」
「ああ」
澱んでいたリュカの瞳に、光が煌めいていた。
それは、リュカの"生気"のようにも思えたサクは、リュカは本気なのだと……悟った。
リュカの腕は立つことは、屍の傷からも一目瞭然だ。
過去の武闘会にリュカが出ていたら、公の場で負けていたかも知れないと思えるほどに。
少なくとも、副隊長であるシュウ以上の腕だろう。
真剣にいかねば、やられる――。
「まさかリュカと……殺し合う日が来るとは」
自嘲気味に笑い、サクは心の中で父ハンに語りかける。
……親父。あんたの言う通りだったよ。
私情に囚われすぎた俺が、甘すぎた。
俺がこんな最悪な事態を引き寄せた。
――だけど。
「リュカ。最後に13年演じた、俺との友情にかけて答えろ。
姫様を泣かせるに至らせた、この一連をひきおこしたのは、本当に……お前の意志か?」
だけど、馬鹿な俺はそれでも――。
「もしも違うのなら」
――ああ。やったな、僕達!
――すげぇな、姫様とリュカがいれば、無敵だっ!
――ええ。無敵よ、あたし達は!!
「俺は……お前を逃がしたい」
それでもリュカを信じたいんだ――。
リュカが殺戮に至ったのは、そうしないといけない理由があったからなのだと、リュカの本心ではないのだと。
そう……信じたいんだ。
たとえ、父を殺された姫様に生涯恨まれようとも。
報われなかった俺の恋。
相手がリュカだからと泣いて笑って身を引き、それでもいまだ諦めきれずに苦しみ続けていることを、後悔などさせないでくれ――。